中国地方 鳥取県
2015年からの鳥取県中部の地震
2016.9.29
佃 為成
鳥取県中部では、2015年10月ごろから群発地震が発生しています。これまでの最大地震はM4.3です。今年の8月からも頻発しています。震源域は1983年10月31日の地震(M6.2)の震源域と重なっています。1983年の地震は発生前に微小活動静穏化が見られて、空白域の大きさから最大M6ぐらいの地震発生が予測されました。そのことは、この地震発生の3年ほど前にローカルのNHKニュースで紹介されました。さらに、直前のサインを掴まえるべく震源地の三朝温泉で水温観測を行いましたが、器械の不調のため直前データの取得は失敗しました。
今回の活動の主な地震は以下の通りです。
2015.10.17 17:53 M3.9 h10km
2015.10.18 08:30 M4.2 h10
2015.10.18 08:36 M4.3 h10
2016.09.26 21:14 M3.9 h10
2016.09.26 21:35 M3.9 h10
2016.09.28 10:20 M3.8 h10
2016.09.28 10:25 M3.9 h10
2016.09.28 10:31 M4.1 h10
さて、鳥取県中部の地震活動開始とほぼ同じ時期に、熊本地震の先鞭をつけた2015年11月14日の薩摩半島西方沖地震(M7.0)の活動がありました。さらに、紀伊半島の地下水温の異常変化(観測情報 南海2016.7 ご参照下さい)も2015年後半から発生しています。様々なデータによって、このような広域の地下の動きをよく見ていくことは大事です。
この夏からの活動は、以下の理由によって注意が必要です。この地震の群は、大きめの地震の数に対して、小さめの地震の数が標準より少ないのです。あるマグニチュード(M)の地震の数に対して、Mが1つ小さい地震を数えると約10倍ぐらいになるのですが、最近の鳥取の活動では3~4倍(専門的な表現ではb値が0.5~0.6)しかないのです。このような地震活動は、ある確率で、前震、すなわち大きな地震の前触れの可能性があります。この鳥取の場合、予想される大きな地震のイメージが今のところ分かりませんので、これ以上のコメントは差し控えます。
2016.10.24
2015年からの鳥取県中部の地震(つづき)
佃 為成
鳥取県中部では、2015年10月ごろから群発地震が発生していましたが、2016年10月21日14時07分にM6.6の地震が発生しました。活動初期の頃の震源域は1983年10月31日の地震(M6.2)の震源域と重なり、しかも1983年の地震断層にほぼ直交する線の上に地震は発生していました。しかし、昨年12月になると、1983年の震源域を北へ延長した線に沿った活動に変わりました。その後、活動は西へ移動します。M6.6地震の直接的な前震活動は9月26日から始まりました。
2016.9.29解説情報発信時に、9月の地震群の性質は、前震の可能性(確率1割程度)があることをコメントしましたが、この震源域が線状に拡大することに絞り込めませんでしたので、具体的な地震像は申し上げませんでした。
さて、前震活動や余震などの震源の線状配列は、震源断層が垂直な面を形成していることを意味します。発震機構と呼ばれる解析からも、M6.6の地震や1983年のM6.2地震の地震断層はほぼ垂直面であり、東西ないし西北西-東南東方向からの強い力を受けて発生したことが分かります。
昨年からの鳥取県中部の地震活動は、上記の力のもと、ほぼ西南西-東北東方向の断層(あるいは亀裂群)と、それに直交する北北西-南南東ないし北西-南東に伸びる断層または亀裂群をつくったと言えます。
今回のM6.6と1983年のM6.2の地震断層は約7km隔ててほぼ平行して並んでいます。9月以前の震源はぽつぽつですが、この地震断層に直交する線状に位置します。
今後のこと予想するため、続報(つづき2)において、これらの活動をもっと詳しく分析します。
2015年10月15日から2016年10月21日までの地震活動。斜線の陰で示した領域は1983年の地震(M6.2)の余震域。データは気象庁(東大地震研のデータベース)。
力と断層の説明:
近畿から中国地方にかけては太平洋プレートの押し込みと思われる東西方向の力が南北方向に比べて大きく、平均からのずれで表現しますと、この地域の地下岩盤は図のように東西は圧縮、南北は引っ張り(岩盤はどこも圧縮を受けています。平均から
の差額が引っ張り)になり、強い力の方向に斜め(だいたい45°)にずれ応力(応じて反発する力)が発生し、ねじれて北西-南東方向や南西-北東方向の亀裂(断層)ができます。
2015年からの鳥取県中部の地震 (つづき2)
2016.10.24
佃 為成
2016年10月21日の鳥取県中部の地震(M6.6)の発生までの地震活動の時間経過を眺めることにします。
期間を次の6つに分け、時間区分の記号をI.,II.,III.,…….、そして、それぞれの期間の地震の巣(震源域)の記号をA, B, C, ……….とします。
活動期間 活動域
I. A 2015.10.15-2015.12.1 東西~西北西-東北東走向
II. B 2015.12. 2-2016. 5.15 北西-南東走向
III. C 2016. 5.16-2016. 8.19 活動域が西へ転移 小さい活動
IV. D 2016. 8.20-2016. 9.25 活動域が東へ転移 小さい活動
V. E 2016. 9.26-2016.10.20 活動域がさらに西へ転移 北西-南東走向
VI. F 2016.10.21
活動全体の水平の広がりはだいたい20km四方、A,B,C,D の震源の深さは5~10km、Eは10~15km。F は主にM6.6の余震ですが深さ3km~15kmで発生しました。初期の頃の震源域Aは1983年10月31日の地震(M6.2)の震源域と交差していました。しかも1983年の地震断層にほぼ直交する線状に地震は発生していました。
昨年12月になると、1983年の震源域の北への延長線に沿った活動Bに変わりました。その後、西のCへ転移、次に東へ戻しD、今度はもっとも西のEへ飛び火します。Eの活動は9月26日から始まりました。本震M6.6の破壊開始点(震源)の深さは11kmで、Eの活動が下から本震の断層活動を煽ったようです。
1983年の活動も念頭に入れますと主な地震分布は北西-南東走向の亀裂(断層)を表しています。この走向に直交する線状の震源域(A)もあります。この地域はほぼ東西の強い力がかかっているため、その方向の斜めに亀裂をつくっています。
鳥取県では鳥取市付近で1943年に鳥取地震(M7.2)、県西部で2000年に鳥取県西部地震(M7.3)が起こっていますが、鳥取地震は、A,C,Dがのっている並びと同じような走向の断層でした。一方、鳥取県西部地震は、BやE,Fと同じような走向の断層でした。鳥取県中部では、上の両者が近接して現れたのです。サイズ10~20kmの同じ走向の断層が近接して平行の位置にあるのは、1997年の鹿児島県北西部の地震(M6.6, M6.4)でもありましたが、珍しいことです。
今後の活動はどうなるのでしょうか。まず、A,C,Dの活動は完結したようには見えません。また、各地震の巣(亀裂)がその亀裂の延長に拡大するかもしれません。注意深く見守る必要があります。