2022.3.23
2022年福島県沖地震(M7.4)の意味
- 2011年東北地方太平洋沖地震の余震 -
佃 為成
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)の余震活動は、すこしずつ収まってきていますが、福島県沖では昨年の2021年2月13日, M7.3に続き、2022年3月16日, M7.4にも大きな余震が発生しました。
これまでの大きな余震のうち、福島県沖の2016年11月22日, M7.4 深さ25km や、本震から1ヶ月後の2011年4月11日に、陸上の福島県浜通りで発生した地震(M7.0, 深さ6km)は、震源が浅く、東西の引っ張りで起こった地震です。震源断層は正断層でした。
一方、昨年と今年の福島県沖地震は、深さ50-60kmで、潜り込んでいる太平洋プレートの中の東西の圧縮力で発生しました(逆断層)。まず、この2つの地震の震源断層を余震分布から推定してみましょう。
本震から2~3日間、M>=3.0 の余震の震源分布です。最初の震源分布図は2021年のもの、次が2022年のものです。2021年の図には、2022年の余震の領域を点線で囲って示してあります。それぞれの本震の位置、震源はスター(黒は2021年、白は2022年)で示しました。この“震源”というのは破壊の開始した場所です。
今年のものは昨年の震源域より、より北側、より深めというのが分かります。
震源断層が拡大したようです。
沈み込むプレート(スラブ)内の地震発生率が2020年4月ごろ以降、以前より10~20%上昇していました(コラボNo.6 解説情報: 日本列島中央部深発地震活動の変化 (2) 2020.8.24)。プレート内の圧縮力の高まりがあったのです。昨年と今年の福島県沖の地震を起こした原因の一つでしょう。そのもっと詳しい説明はコラボNo.7 解説情報 p97をご覧下さい。
(図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁データJMA_PDEを使用)
2021.2.16
2021年福島県沖地震(M7.3)の意味
- 2011年東北地方太平洋沖地震の余震 -
佃 為成
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)の余震活動は、すこしずつ収まってきていますが、久しぶりに大きな余震(2021年2月13日, M7.3)が福島県沖にて発生しました。M7.0以上の余震は、これも福島県沖の2016年11月22日, M7.4 以来です。2016年の地震は深さ25kmで浅く、日本列島を乗せている大陸側のプレート内で、東西に引っ張られた力で起きました。今度の地震は深さ55kmで、潜り込んでいる太平洋プレートの中の東西の圧縮力で発生しました。
M9.0の超巨大地震のプレート間の大きな滑りで、大陸側のプレートは太平洋プレートに乗り上げ、東西に伸びました。その引っ張る力が働いたのが2016年の地震の原因でした。本震から1ヶ月後の2011年4月11日に、陸上の福島県浜通りで発生した地震(M7.0, 深さ6km)も東西の引っ張りで起こった地震です。2016年の地震と同じく震源断層は正断層です。今度の地震はプレートのスラブ内に逆断層を造りました。
沈み込むプレート(スラブ)内の地震発生率が2020年4月ごろ以降、以前より10~20%上昇していました(コラボNo.6 解説情報: 日本列島中央部深発地震活動の変化 (2) 2020.8.24)。プレート内の圧縮力の高まりがあったのです。今回の地震を起こした原因の一つでしょう。
今回の地震の震源(断層破壊の出発点)の深さは55km、M7.3の震源断層の図体はさしわたし40~50kmですから、どんなにがんばっても地表まで届きません。海底の上下変動はわずかで、その上の海水を持ち上げたり、下へ引っ張ったりすることによって発生する津波が起きにくかったわけです。
上の図は、2011年1月1日から2021年2月13日までの日本列島内およびその周辺の震源分布(M>=7.0)です。図には、地震のデータについて、地図に震源の地理的範囲、図の最上部の欄に、観測期間、プロットされた震源の数(N)、震源の深さの範囲(H)、マグニチュード(M)の範囲が記されています。下の図は、上図と同じ領域に発生したM6.0以上の地震を取り出し、その地震が発生するとその時刻にMの大きさの縦棒を描いたものです。時間(T)とマグニチュード(M) の図です(M-T図)。
ところで経験則によると、M9.0地震の最大余震の規模は本震より1.0だけ小さい、M8.0ぐらいだと考えられますが、まだ、発生していません。警戒が必要です。この巨大地震(余震)の予想される発生場所は三陸沖と房総沖です(コラボNo.2 解説情報: 3.11超巨大地震のM8余震は起こるか 2016.9.8)。
(図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁データJMA_PDEを使用)
3.11超巨大地震のM8余震は起こるか
2016.9.8
佃 為成
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)の破壊域(地震断層域、震源域)の北と南の端付近でこの8月中頃から群発性の地震活動が目立ちます。
日本列島付近の最近の地震分布を見ますと、だいぶ静かになったとはいえ、2016年4月からの熊本地震(主震M7.3)の余震も目立ちますが、日本海溝沿いの地域にも固まった地震の群が見えます。
三陸はるか沖の活動については、高波徹夫さんの報告(2016.9.1)があります。今日の新しいネタは、房総半島はるか沖です。四角で囲った地域の活動の推移が次の図です。横軸(時間T)には8/15からの日付が書いてあります。縦軸は地震のマグニチュード(M)です。こういうのはM-T図などと言います。この範囲の地震で最も大きい地震はM5クラスです。震源の深さは20~40kmです。
さて、東北の超巨大地震から5年以上経過しました。その余震活動がこの先どうなるかを占ってみたいと思います。
その前に、一般的な経験知識を申し上げます。顕著な地震が発生しますと、必ず余震が後に続きます。その余震のグループの中で最大規模のものは、本震よりだいたいMが1ほど小さいものです。3.11の地震ではM8.0ということになります。ところが、M7.8の余震は直後に発生しましたが、M8.0やM7.9,M8.1などの地震まだ発生していません。もし、それが起こるとすれ三陸沖か房総沖ではないかと多くの専門家が考えています。その辺りは岩盤が歪んで内部の力が増大している場所で、歪エネルギーと呼ばれるエネルギーが蓄えられています。M8を起こす分はもう溜まっていると思われています。
そのM8余震が起きるかもしれない地域に最近群発地震です。要注意です。なぜなら、群発地震というのはその付近の応力(岩盤のゆがみに反抗する力)が高くなってきたことのサインです。弱いところがあれば先に小さめの地震を連発します。
なお、関東の活動では、千葉県銚子沖や茨城県南部などでも地震が頻発しています。
東北地方太平洋沖地震
まず、超長期的な情報から。
太 平洋プレートが東北日本を押すことによって、大地に皺(しわ)ができます。数千年から数百万年間に蓄積された地形や地 層のしわ変形の速度が分かっています。東北日本では東西に、年間1億分の1の割合で縮んでいます。また、三陸海岸などでは、数十万年の間、大方、隆起して います。
次は、100年間ぐらいの長期的情報です。明治時代に地図作りのため全国で測量が行われまし た。何回かの測量によって時間経過とともに地面がどう変形したかを調べると、年間数千万分の1の割合で縮んでいます。さらに、海岸には潮汐観測のため検潮 所が設けられ海面の上下変動(潮位)が計測されています。データには日々変化する潮位と何十年に渡る長期的な変動が重なっています。後者は海岸の地面の上 下変動です。このデータから最近数十年は海岸は沈下を続けていることが分かります。
このように、超長期的変動と長期的変動が大きく食い違うのです。数百万年間では年間1億分の1の割合で縮んでいますが、この100年間は年間数千万分の1 の 割合で縮んでいます。また、太平洋側海岸では、数十万年間は隆起、最近数十年間は沈降です。これはある種の矛盾です。以上のことはよく知られた事実だった のですが、1996年、ある学者が、「超巨大地震が起きないとおかしい」という研究を発表しました。東北のあの地震は、まずその存在が予知されたのです。 想定されたのです。
一方、1996年、人工衛星を用いた測量技術(GPS)が本格的に展開され、測量のデータが時々刻々得られるようになりました。GPSを用いた研究で、東 北地方太平洋沖では、ある領域で歪みが蓄積していることが判明しました。2000年頃のことです。その異常領域が正に3.11地震の震源域でした。もし、 先ほどの「超巨大地震が起きないとおかしい」という研究情報とこのGPSデータ情報が結びつけば、さらなる研究に発展しただろうと思います。ところが、当 時、この2つの情報が共有されなかったのです。
以上のような研究に多くの研究者がまず注目して、一般の方々にも「こんな地震が存在し、差し迫っているかもしれない」「その地震が起こると、すごい津波が くる」と知らせておけば、直前の予知ができなくても、あの地震が起こったとき、「あの地震だ、すぐ高台へ逃げよう」と思った人がもっと多かったのではない でしょうか。
もう一つ、過去の大津波の研究があります。平安時代の869年貞観の大津波では、宮城平野で海岸から3kmほどの内陸部に津波が襲ったことを、古文書だけ でなくボーリングによる津波堆積物の調査から確認されました。その最初の研究結果が発表されたのは1990年のことです。津波被害が甚大であった2004 年のスマトラ島沖の超巨大大地震以後、津波堆積物の調査が世界的に盛んになり、日本でも各地で調査が進みました。このように、巨大津波の地震が存在するこ とは、ずいぶん前から明らかにされていました。
さて、3.11地震の2日前に、宮城県沖にてM7.3の地震が発生しました。この地震の余震を調べますと、大きい地震と小さい地震の数の比が、普通の地震 の場合にくらべて異常でした。大きい余震の数に対し小さい余震の数が普通より著しく少なかったのです。データを監視している専門の人はすぐ分かったはずで す。長い地震学の研究によれば、このような地震の起こり方は、より大きな地震の前触れであることが多いのです。
このとき、M9クラスの地震を普段から頭に描いていれば、このM7.3の地震が前震、つまりM9クラスの本震がすぐやってくるのでは、と判断できたと思い ます。少なくとも、警戒をした方がいいという情報は流せたと思います。専門家集団も一般の方々もそのような地震を想定していれば。
以上述べた3.11の地震についての前兆の情報は、大きく分けて、(1)超巨大地震の存在を想定、(2)その震源域での歪みエネルギー蓄積、(3)前震活 動の可能性、になります。たったこれだけの情報でも、人々の間で共有できていれば、何かできることはあったのではないかと悔やまれます。
その他にも情報はあります。1年ぐらい前から新潟県出湯温泉の水温が一定から下降に転じた異常変化、さらに数ヶ月前の異常上昇変化があったことや、数ヶ月 前から伊豆半島の地下水中のラドン濃度が著しく上昇したことが分かっています。さらに多くの情報が得られれば、重ね合わせたり、比較したりするなど、それ らを総合することにより、より正確な予知が可能になります。超長期的、長期的に見て、超巨大地震が想定されるのであれば、研究者は、それを確かめるための 様々な観測を展開すべきであったのです。