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用語の解説

                                   

                                     2023.9.23

   深部低周波微動・深部低周波地震とは

 

                佃 為成

 

 

1995年兵庫県南部地震以後の観測の高度化によって、まずプレート境界ではスロー地震や低周波地震が発生していることが明らかになりました。そして、2000年頃から、ふつうの地震より震動の周期が長い、つまり周波数が低い地震波を放出する地震やそれが群になって発生する現象が発見されました。阪神淡路大震災以後、全国に整備された1,000カ所以上の高感度地震観測点によるデータ集積の成果です。

 

これまでは、それぞれの観測点だけの震動記録を眺めていても観測点近傍の何か人為的な雑音かなと思われていたものが、同時間帯に多数の観測点で記録されて、火山地帯ではよく知られた火山性微動のような波形が火山地帯だけでなく観測されるようになったのです。図にそのような震動波形が地震観測網の各観測点に記録された例を示します。

 

そこにはパルスのような孤立的な波形も見られます。多くの観測点で対応する波をP波、S波と解釈し、3~4点以上の観測データからその波の発生源、すなわち震源を求めることができます。それらは非常に小さい地震で、震源の深さは、通常の微小地震の多くは深さが20kmより浅い上部地殻で発生しているのに対し、このノイズみたいな震動源は深さが20kmより深いところにあり、長時間継続するものと、単発的な地震に対して、それぞれ深部低周波微動、深部低周波地震と名付けられました。多くは、周波数2~10Hzです。

 

深部低周波微動、深部低周波地震は、プレートの潜り込みの滑り面あたりや、火山付近の直下に多く見られます。最近の観測研究によれば、かなり広い地域の各地で見いだされています。

 

 

図は、下記の文献より。

 

勝間田明男・鎌谷紀子(2003):西日本における低周波微動・地震の発生位置と発生要因, 地震予知連絡会会報,70,  533-537.

 

 

 

 

    2022.10.19

 

地震のマグニチュード別発生頻度

 

                        佃 為成

 

 

日常、地震はどれくらい起こっているのかを調べるため、地域と期間を限定し、発生する地震の回数を数えてみましょう。そのときマグニチュード(M)も限定します。

 

日本列島とその周辺の海域、おおよそ沖縄から千島列島南部付近、小笠原諸島までを簡単に日本と呼ぶことにします。

 

この地域にはM7クラス(Mが7以上8未満)の地震は、だいたい年平均1回発生しています。

M6クラスはだいたい10回、M5クラスは100回、M4クラスは1000回ぐらい発生します。

 

要するに、Mが1 小さくなると数が約10倍に増えます。ところでM8クラスは年平均0.1回、すなわち10年に1回。この法則は長い年月の平均であって、ある年には、M7クラスが2回以上も発生したり、1回も発生しないときもあります。

 

世界では、M8クラスが年平均1回、M7クラスが10回、M6クラスが100回という具合になります。つまり、すべて日本の10倍になっています。

 

上の法則を応用すると、それぞれの地域の地震発生のだいたいの予測ができます。大きな地震は回数が少ないので、例えば1つの県ぐらいの広さの地域では、M7以上の地震の再来間隔は数百年や数千年、またはそれ以上になります。

 

しかし、小さい地震については、数十年を振り返ってM4クラスの地震が1年に1回ぐらい起きているならば、M3クラスは年に10回ぐらい、M2クラスは100回くらいと予想できるのです。

 

 この関係は、大きな地震のあとに起きる多数の地震(余震)について調べてもだいたい成り立ちます。群発地震と呼ばれる地震の群についてもだいたい成り立っています。

 

次に、地震の発生間隔について考えてみましょう。例えばある地域で、M6程度の地震が約10年毎に起こっているとします。すると、Mが1.0上がってM7程度の地震は、約100年毎に起こることになります。

 

ここで、地震のマグニチュード別頻度の法則を式で表してみます。マグニチュードが MからM+ΔM までの地震の数 n は、

 

          Log n = a – b・M

 

と表されます。a と b は定数です。b のことをb値と言います。b値はだいたい1.0ですが、場所や期間によってはこれより大きくなったり、小さくなったりします。b値は、岩盤にかかる力の大きさに関連します。

 

吉川(2022)に、西南日本におけるb値の時間的変化の実例が示されています。

 

                           

          (佃,2007 による)

 

参考文献:

佃 為成(2007):地震予知の最新科学, サイエンスアイ新書,.

吉川澄夫(2022):西南日本における近年の地震活動静穏化と活発化 コラボNo.8, pp.7-13.

  2021.1.29

     地震発生率とは

 

                 佃 為成

 

 岩盤にあらゆる方向から同じ力、つまり均等な力がかかると、岩盤は全体に縮んでいきますが、安定なので内部に亀裂は発生しません。

 

ところが、ある方向は強く、そのほかの方向は弱い力がかかったとします。すると、内部にはねじれの力、あるいは、ずれの力が発生します。この力に岩盤の粘りが負けると、岩盤内部にずれの亀裂、すなわち断層ができます。急激な断層生成は振動をともなう地震の発生を意味します。

 

上の事情を確かめる簡単な実験をコラボNo.3 (2017年10月)解説情報 3) 地下の岩盤にかかる力と地震 (2017.6.12発表)にご紹介しました。

 

岩盤内にずれの力が発生することの簡単な理論は、下記の新書のコラムをご覧ください。この本は電子書籍にもなっています。

佃 為成:地震予知の最新科学, サイエンスアイ新書, 2007.

 P102-103 応力とは?

 P104-105 主圧力軸・主張力軸・ずれ応力

 

さて、岩盤に、方向によって不均等な力が加わると、岩盤内にねじれが生じ、それが亀裂に発展し、急激なずれの動きが地震となります。この亀裂が地震断層です。その様子を図にしました。左右方向の力が大きいとして描きました。

ところで、地震の規模(いきおい)(M)は、ゆれの大きさに基づいて測定します。統計的に調べると、それはだいたい亀裂の大きさで決まります。相似法則があり、M1.0の地震の亀裂のさしわたしは約30mです。もっと小さいM0.0だと10mです。M-2.0 では1m、M4.0では1km、M6.0は10km、M8.0は100kmぐらいの大きさになります。

 

岩盤にかかる力が大きくなると、もっと正確に言うと、各方向の力の大きさの差が大きくなると地震は発生し易くなります。

 

大きな地震が発生する場合はかなり前から力が大きくなっている領域があるはずです。力が増大すると、それに連れて小さな地震の発生率が上昇します。

プレートが沈み込んでいる部分(スラブ)の微小地震活動に、それが現れます。実例は

コラボNo.6 (2020年10月)解説情報 14) 日本列島中央部深発地震活動の変化 (2020.5.25発表)

にあります。2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(M9.0)の前の地震活動。

 

大きな地震の前には、微小地震活動活発化の逆の静穏化が発生することもしばしば起こります。大地震が発生する場所のまわりには岩盤が圧縮される部分だけでなく、膨張する部分(ここでは力が小さくなります)ができます。そのため、静穏化も起こります。静穏化が起こる理由はほかにもあり、まだ途上の研究課題です。

 

最後に、地震発生率を求める方法の話です。微小地震の発生の様子を見ていると、これらは、めちゃくちゃ(ランダム)に起こっています。でも、ある期間に注目すると、ある平均的な発生率になっているのが分かります。これを調べる簡単な方法は、微小地震の発生回数を時間に沿って数え、その数が増大していく様子をグラフにするのです。

 

地震の発生の度に1ずつ数を足していく積算回数のグラフは、コラボの各号の解説情報によく出てきます。そのグラフの曲線(カーブ)はある期間では直線で近似できることが多く、グラフをプリントして、カーブに沿って眺めると、直線部分がはっきり分かります。地震がクラスターをつくると、すなわち、ある時間、ある場所に固まって起こると、カーブにこぶができます。このクラスターを避けたり、それを除いたデータに対して、このグラフの活用は有効です。

 

地震発生率の割り出しはこうです。例えば、1年間に何回地震が発生するかとか、1日に何回発生するかを数字にします。積算回数のグラフの曲線を直線で近似して、その直線の傾きを求めるのです。それが発生率です。

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