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解説情報

 

                          2020.4.26

              北海道根室沖の地震空白域について

 

                          高波 鐵夫

 

一般に海溝沿いに発生する巨大津波地震は甚大な被害を被ります.古くから北海道の太平洋沿岸では多くの津波を経験してきました.

しかし深海の海溝沿いで発生する巨大津波地震が地球科学として捉えられるようになったのは, 1960年代後半以降のことです.

 

さらに最近では千島海溝沿いの深海下で発生する大地震発生メカニズムの多様性も指摘され,既存の固有モデルで捉えることができない場合も指摘されています.

 

しかし巨大津波地震の予防・減災を考慮すると,その予兆現象の確認作業はたいへん重要です.まず前兆現象の1つとして,想定震源域で数年前から見られる地震活動の静穏化が挙げられます.とくに巨大地震が発生するべきところでまだ地震が発生していない領域を第1種空白域(seismic gap)と言われていますが,最近の予兆現象として,当会報のコラボNo.3の解説情報 (2017.6.19)で根室半島沖に第1種空白域らしき無地震域を指摘しました.本報告では,その続報として空白域が確認された根室沖に注目し,最近の地震活動の推移を再検討してみました.

 

まず大雑把ではありますが巨大津波大地震の発生場所は海溝沿いの深さ30km以浅の地震発生帯にあると想定し,2000年1月1日〜2020年3月31日の間に発生した30km以浅の地震を対象としました.

また拙著らの先行研究(1996)*を考慮し,マグニチュードの比較的大きな地震(ここではM5以上)を扱いました.

 

第1図に示すように色丹島沖の1994年根室半島沖地震(M8.2)の余震域と2003年十勝沖地震(M8.0)の余震域で地震活動が認められます.とくに前者の海域で活動が目立っているのが知れます.一方,その2つの領域に挟まれた海域では明瞭な地震空白域が確認できます.

 

つぎにこれらの地震を発生順に並べた時系列グラフを第2図に示します.この図の横軸は2000年1月1日〜2020年3月31日の時間を,縦軸は地震のマグニチュードを表し,各地震発生時刻に各地震のマグニチュードに比例した縦線を描いてあります.

この時系列グラフから当該海溝沿いの地震数は時間経過とともに減少し,M5以上の地震活動の静穏化が進行しているのが判ります.

 

ところで大きな地震(たとえば本震)の発生直後からその規模に見合うだけの余震が多数続発します。その空間分布を余震域と呼んでいます.宇津・関(1969)に従って本震のマグニチュードは余震域の大きさに比例します.

 

余震活動が終息した領域を空白域と見なすなら次に想定される地震のマグニチュードはM8前後の大地震と考えられます.

 

さて当海域を地球規模で眺めると,厚さ約100kmの岩盤(太平洋プレート)が平均約8cm/yrのスピードで北海道に向かって水平移動しています.最終的には千島弧と衝突しますが,この太平洋プレートは海洋プレートであるために陸的な北海道よりも重く,衝突後は北海道を乗せたホホーツク・プレート(または北米プレート)下のマントル内に沈んでいきます.

 

千島海溝付近で起こる地震は,重い太平洋プレートが軽い陸的構造のオホーツク・プレートと衝突し,かつ自重でマントル内に沈み込もうとするプレート間の相対運動とも言えます.

 

明瞭な空白域は地震発生域での沈み込む下盤側と上盤側との強いカップリング(固着)を表しています.

 

2020年4月21日に開催された内閣府の有識者会議では道東沖の千島海溝沿いと日高沖から三陸沖にかけてマグニチュード9クラスの津波地震の発生が「切迫した状況である」と公表しました.当該空白域がその海域にあります.逼迫した海域での監視は益々重要であると言えるでしょう.

       

 

* TAKANAMI, T., SACKS, I. S., SNOKE, A., MOTOYA, Y., and ICHIYANAGI, M. (1996), Seismic Quiescence before the Hokkaido-Toho-Oki Earthquake of October4,1994, J. Phys. Earth, 44, 193–203.

**宇津徳治・関彰. (1954), 余震区域の面積と本震のエネルギーとの関係, 地震,7, 233-240.

(図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁データ、JMA_PDEを使用)

 

 

 

 

 

 

2017/06/19

北海道とその沿岸における最近(2000年~)の浅発地震活動

〜2011年東北地方太平洋沖地震前後の変化〜

 

                         高波 鐵夫

 

 2011年3月11日東北地方太平洋沖地震前後に注目し、その前後での北海道、および太平洋側海域における浅発(深さ30km以浅)地震活動の変化を調べてみました。

 

 その結果、右の上図と下図とで示されているように、東北沖地震後、2003年9月26日十勝沖地震M8の震源域(十勝〜釧路沖)では、余震活動がかなり低下しているのが判ります。

 さらに注目すべきは1976年6月17日の根室半島沖地震M7.4の震源域〜1994年10月4日北海道東方沖地震M8.1の震源域南部(色丹島沖)での広域ではこの東北沖地震に反応することもなく地震の空白を維持し続けていることです。ただ詳細に観察すると、そのはるか海溝寄りの海域では東北沖地震前に確認できた散発的地震活動はこの東北地震以後は静穏化しています。

 仮にこの広域の空白域直下のプレート境界でひずみエネルギーを一気に解放した場合はかなり甚大な地震被害が懸念されます。

 

 一方、北海道東方沖地震の震源域北部(択捉島沖)では時間とともに地震活動が低下しつつも依然として明瞭な地震活動が認められます。この活動域と空白域とは明瞭に区分けられ、当海域での個別の地震活動域が存在し、それらは互いに独立しているような印象を受けます。ここで留意すべきは扱った地震が沈み込むプレート境界での地震ではなく、主に上盤側プレート内の地震であるということです。一般に海側の大きな地震はほとんどプレート境界で発生していますが、もし上盤側(付加帯)の地震活動がその直下のプレート境界でのカップリング状態を反映していると推察できるならそれらはプレート間のカップリング状況を反映した貴重な情報と考えられます。

 

 今回はこの考えに基づいて浅い地震活動調査を試みました。  

 一方北海道内陸部の地震活動に目を転じれば、東北内陸部で確認された誘発地震、もしくは静穏化への変化は明瞭でなく、したがってこの地震による北海道内陸部への大きな影響は無かったものと想像されます。大局的には内陸地震活動は主に群発地震や火山性地震が定常的に繰り返し起こっているところで確認されています。


 用いた地震カタログは暫定的であり、以後変更されることがあります。

 地震活動の調査には気象庁地震カタログ(速報)と地震活動可視化のTSEIS(震研究所)を利用しました。

北海道200426-1.png
北海道200426-2.png

2000年1月1日〜2011年3月10日の期間、深さ30km以浅に発生したM3.5以上の地震の震央分布。

2011年3月11日〜2017年6月17日の期間、深さ30km以浅に発生したM3.5以上の地震の震央分布。

第1図.根室沖地震の空白域      

ヘッディング 1

第2図.地震発生の時系列

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