2025.3.3
千葉県北西部の地震活動と1855年安政江戸地震
佃 為成
千葉県北西部の深さ60-80kmの領域は、図のよ
うに、太平洋プレートとフィリピン海プレートがぶ
つかってこすり合う場所です。さしわたし20kmぐ
らいの地震密集域(クラスター)を形成しています。
この図は、参考文献(1)の第4図に基づきます。
千葉県北西部の深さ60~80kmの震源クラスターの
主な地震は、以下のようです。1980年以前は文献
(2)に依ります。
1928.5.21 M5.8 h60km
1952.5.8 M6.1 h60km
1980.9.25 02:54 M6.1 h80km
2005.7.23 16:35 M6.0 h73km
2021.10.7 22:41 M5.9 h75km
最近では2021年10月7日 22:41 に、深さ75kmでM5.9の地震が発生しました。M6.0前後の規模の地震は、2005年ごろまでは約25年の間隔で発生していましたが、2005年以来、今度は16年の間隔で発生しました。
ここの震源+クラスターの大きさはM7程度の地震に相当します。そのMが1小さいM6程度の地震が16~25年間隔で発生していますから、地震の規模別頻度の統計法則によれば、M7程度の地震はだいたい160~250年に1回発生する勘定になります(3)。
M7程度の地震は、首都圏直下大地震です。現在活動度が上がっていますので注視しましょう。千葉では2020年11月1日より水温観測をおこなっています(4)。
さて、200年ぐらいの間隔でM7程度の地震が発生するのであれば、江戸時代にそれが発生しているはずです。その候補が今から170年前に起こった1855年11月11日の安政江戸地震(M6.9)です。この地震については、私の著書(5) では、震源は浅いのではないかと推論しました。しかし、中村他(2007)(6)の研究によれば、震源が深さ70kmで、各地の揺れの大きさを説明できるそうです。震源も東京都と千葉県の境あたりです。
また、深い震源域の異変を深部流体上昇(7)によって地表付近まで伝えることも可能ではないかと考えられます。そして最近、千葉県柏市にて民家の庭の井戸からお湯が出てきたというニュースがあります(8)。
安政の地震のときのように、湧水、前震活動などが現れるかもしれません。千葉市の井戸の水温観測データにも、「地下からのサイン」が見つかるかも。
なお、安政の江戸地震の1年前、1854年には東海地震を含む南海トラフの巨大地震が発生しています。
参考文献:
(1)石田瑞穂・木村武志(2019):首都圏における地震活動の多様性-フィリピン海プレートの沈み込みに及ぼす伊豆島孤の影響, GSJ地質ニュース Vol.8 No.8
(2)東大地震研究所地震予知観測室(1981):千葉県中部の地震(1980年9月25日, M=6.1)前後の地震活動, 地震予知連絡会会報, 第25巻, pp.77-81.
(3)佃(2023):解説情報 地震のマグニチュード別発生頻度とb値 2022.10.19 コラボNo.9, p.74.
(4)佃(2022):観測情報 千葉県北西部における水温観測 2022.4.4 コラボNo.8, p.111.
(5)佃(2007):地震予知の最新科学, サイエンスアイ新書.
(6)中村亮一・植竹富一・佐竹健治・遠田晋次・宇佐美龍夫・島崎邦彦・渡辺健
(2007):関東地域の三次元減衰構造・異常震域とそれに基づく1855年安政江戸地震の震源深さの推定, 歴史地震, 第22号 101-107.
(7)佃(2018):深部流体上昇仮説とは, コラボNo.4, 15-19.
(8) Yahooニュース(2022.5):自宅庭の井戸から突然湧いた温泉、近所の住民ら集まり足湯楽しむ・・・千葉の民家.
2024.3.9
千葉県東方沖スロースリップ--- 2024年2月26日からのイベント ---
佃 為成
千葉県東方沖(房総半島東方沖)ではしばしばスロースリップ(ゆっくり地震)とそれに伴う群発性の地震(普通の地震の余震みたいなもの)が発生しています。
スロースリップ検出のためには地殻変動を測定しなければなりませんが、1980年頃から傾斜計観測網充実、1997年ごろからGPSのデータが使えるようになり、1983年のイベントから、今回(2024年)まで9回のイベントが見つかっています。3~6年間隔で発生しています。
1. 1983 (7年)
2. 1990 (6年)
3. 1996 (6年)
4. 2002 (5年)
5. 2007 (4年)
6. 2011 (3年)
7. 2014 (4年)
8. 2018 (6年)
9. 2024 ( )内はだいたいの間隔年数。
房総半島付近の直下のスロースリップは、フィリピン海プレートが南から北へ向けて沈み込んでいて、陸側のプレートとの境目で発生しています。スリップ域の広さとずれの大きさから、ずれを起こす、互いに反対のダブル回転力(モーメント)を求めると、対応するMが見積もれます。モーメントマグニチュードMwです。これまでのイベントはMw6~7のようです。
まず、2024年2月20日からの地震活動を房総半島周辺の震央分布を示します。
次に、スロースリップ近辺(前図の四角の部分)の震源分布、その活動の時間変化(M-T図)を示します。2024年3月7日までの最大地震は 20224.3.1 05:43 M5.3 h31km です。2番目は千葉県白子町付近の陸地直下の2024.3.2 01:49 M5.0 h26km です(h は深さdepth)。
(図の作成には東大地震研究所TSEIS web版の気象庁データJMA_PDEを使用)
参考文献:
1) 防災科学技術研究所(山本英二・大久保正):地殻傾斜の連続観測で捉えた2002年10月に発生した房総半島東方沖のスロースリップ, 地震予知連絡会会報, 69, 198-204,2003.
2) 防災科学技術研究所(松村正三):地震活動変化によるスロースリップ域の特定, 地震予知連絡会会報, 79, 107-109,2008.
3) 地震調査研究推進本部地震調査委員会:2024年2月26日からの千葉県東方沖の地震活動の評価, 2024.3.1



