2022.12.23
兵庫県猪名川町でのラドン定点観測
佃 為成
地下深部から熱水やガスが上昇してきます。地下岩盤の変形や応力の変化は、その上昇量の変化によって知らせてくれます(地下からのサイン)。
地下から空中に放出されたラドンガスは、放射線を飛ばしながら、半減期3.8日で消えていきます。ラドンが地中から出てきたところをガンマ線測定器で検出します。
新幹線の車中と同様な測定を定点で繰り返しおこなっている例を紹介します。近畿地域観測の基地として兵庫県猪名川町柏原のペンションを利用させていただいています。そこに宿泊すると、ガンマ線測定器(Radon Emanometer)を2階の客室に設置して観測します。一晩、15時間の測定です。
ラドン(Rn)は崩壊して、ビスマス(Bi)に変わり、そのBiが崩壊するとき放射するガンマ線を測定します。
私たちが知りたい、大地震の準備過程などの非定常な地下岩盤の動きを反映し地下深部から上昇してきたラドンの指標は、元のガンマ線測定値から定常的な値を差し引いたものです(ラドンエマネーションファクターREF)。
定常的なBiのガンマ線の推定には、カリウム40(K40)が放射するガンマ線を手がかりにします。利用しているペンションはログハウスで、K40の放射が強いコンクリート造りではないことが重要です。ここで観測しているのは地上付近の岩石から放射されるものです。
測定器は古い機器(No.1)と新しい機器(No.2)があり、同じ部屋に2台ならべて並行観測をしていた時期もあります。No.1は2014年まで稼働。
上図は観測点の位置を示す図です。水温や水位の観測点の場所も示しています。ガンマ線観測点と水温観測点KWは同じところです。
下図がK40とREFの変化の、No.1とNo.2の2つの機器それぞれについてのグラフです。各15時間の観測データの平均値をプロットしています。
REFが高い時期があります。最近も高くなっています。データは、2022年6月2日まで。
参考文献:
Tsukuda, T., Radon-gas Monitoring by Gamma-ray Measurements on the Ground for Detecting Crustal Activity Changes - Preliminary Study by Survey Method - , B.E.R.I., Univ. Tokyo, 82, 1-15, 2008.
観測情報:新幹線車中のラドン観測 – 京都・米原間の異常 2022.12.23
[ラドンエマノメータ(No.2)故障のため、2022年10月以降観測できなくなりました]
2022.12.23
新幹線車中のラドン観測 – 京都・米原間の異常
佃 為成
地下深部から熱水やラドンなどのガスが上昇してきます。空中に放出されたラドンは放射線を飛ばしながら、半減期3.8日で消えていきます。ラドンが地中から出てきたところを、ガンマ線検出器を用いてすばやく検出します。
地下の岩盤には、ウラン(U)が含まれていますが、この重い元素は崩壊してラジウム(Ra)に、そしてラドン(Rn)に、さらにビスマス(Bi)に変わります。このビスマスも崩壊していきますがそのとき電磁波としては最も波長が短い、ガンマ線を放出します。実は、このBiのガンマ線の波長は小型の機器で測定するには都合がいいのです。
ビスマスはラドンから生成されるので、ビスマスが放出するガンマ線が検知されればラドンが近くにいるはず、と考えます。
地面近くの岩盤では定常的な放射崩壊が起こっていて、定常的なビスマスからのガンマ線が存在します。私たちが知りたい、大地震の準備過程などの非定常な地下岩盤の動きを反映し地下深部から上昇してきたラドンの指標は、元のガンマ線測定値から定常的な値を差し引いたものです。これをラドンエマネーションファクターREFと呼びます。
定常的なビスマスのガンマ線の推定には、原子核内の中性子が普通のカリウムより1個多いカリウム40が放射するガンマ線を手がかりにします。
ガンマ線測定器のヨウ化ナトリウム(NaI)結晶にガンマ線が入射すると光を発し、その光が光電子増倍管という真空管に入ります。入射した光が金属板にあたって電子を放出し(光電効果)、飛び出した電子が別の金属板に当たり、そこからもっと多くの電子を発射、これを続けて電子の雪崩を作るのです。ガンマ線が1個(電磁波という波ですが、粒でもあります。光も波であり光子という粒)飛び込むと、電子の流れ(電流)が発生し、これを電流計で検知します。測定されたガンマ線の量は、単位時間(30秒)に観測したガンマ線の個数です。
ここでは、ガンマ線観測を新幹線こだま号の車内でおこなった結果の1部を紹介します。特に、京都から米原の間、大津あたりでラドン放出が最近増大しているお話です。参考文献には1999年4月23日から2005年3月28日までの結果がまとめられています。その後のデータ(2005年7月22日から2022年6月4日まで)を追加しました。京都から東京まで走行中に測定したREFの平均値からのずれを縦軸に、変動の標準偏差をσとし、2σ、3σのレベルを横線で示しています。
図にはいくつかのREFグラフを示します。一番上はとくに異常なしの時の例、あとの2件は3σを越えた時の例です。また、3σを越えた測定日を時間軸に棒で示しました。ラドン放出が盛んだった時期は、2000年~2005年と、最近の2018年~2020年です。
参考文献
Tsukuda, T., Radon-gas Monitoring by Gamma-ray Measurements on the Ground for Detecting Crustal Activity Changes - Preliminary Study by Survey Method - , B.E.R.I., Univ. Tokyo, 82, 1-15, 2008.