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解説情報 鹿児島湾の地震

2021.4.9

鹿児島湾・湾奥の最近の地震活動

(第1報)

          石原和弘

 鹿児島湾は幅が約20km、奥行きが約65kmあり、東京湾とほぼ同じ大きさです。鹿児島湾の入り口には、開聞岳、池田・山川など阿多カルデラの後カルデラ火山が並び、湾奥には約3万年の巨大噴火で生成した直径約20kmの姶良カルデラがあります(写真1)。

 

姶良カルデラの南縁では、桜島が1955年以来頻繁に噴火を繰り返し、北東部の海底火山、若尊では活発な熱水活動が続いています。

 

姶良カルデラの北方20km先には、2011年1月の新燃岳噴火以降活発な火山活動を続ける霧島連山が連なっています。

 

第147回火山噴火予知連絡会(2020年12月23日)の公開資料を用いて、鹿児島湾の湾奥、姶良カルデラ周辺の地震活動の特徴と火山活動との関係を3回に分けて解説します。

姶良カルデラ周辺の2010年10月から約10年間の震源分布を図1に示します。

 

震央分布図を見ると、桜島の南部から若尊付近で多数の地震が発生していることが分かります。断面図を見ると、火山活動が地表に現れている桜島と若尊付近では震源が地表近くまで伸びています。

 

他方、カルデラの外の地域では震源が5kmより深くなっています。カルデラの北東端から霧島の西山麓まで震源が並んでいます。霧島の火山活動とも関連があるかもしれません。

 

鹿児島市南部(喜入)で、2017年07月11日に震度5強が観測された地震は、桜島から南へ約20km離れた図1の下端付近で発生しました。震源域の南約20kmには開聞岳があります。姶良カルデラの北西の活火山、米丸と住吉池周辺では今のところ地震活動の活発化は認められません。

地震の空白域となっている姶良カルデラの中央部付近の地下約10km、及び桜島直下の付近の2ヶ所には、地殻変動観測からマグマ溜りの存在が推定されています。カルデラのマグマ溜りから桜島のマグマ溜りへ移動・上昇するマグマによって桜島の噴火活動が維持されています(図2)。

1914年桜島大正噴火直後に付近を中心にいったん沈降したカルデラ周辺の地盤は、1915年以降現在に至るまで地下深部からの絶え間ないマグマ供給により隆起を続けていることが水準測量やGNSSで観測されています。

 

また、桜島南岳の爆発的噴火の前後には、付近の圧力増減に起因する山頂部地盤の1mm未満のごく微小な隆起・沈降が水管傾斜計と伸縮計によって観測されています。

 

続報では、火山観測データも用いて、若尊と桜島付近の地震活動の特徴と火山活動の関係を解説します。

2021.4.9

鹿児島湾・湾奥の最近の地震活動

(第2報)

 

           石原和弘

 

 姶良カルデラの東側、海底火山若尊付近(図1)の2010年10月以降の約10年間の地震の地震活動の推移を図2に示しました。

 

図2をみると、2012年前半に一時的に地震が多発した後にいったんは収まりましたが、2015年頃から発生頻度が次第に増加しています。更に、地震活動は2019年頃に低下したものの、2020年初めに多発し、その後発生頻度が加速しています。

 

若尊周辺の地震活動が、火山活動に関係しているのか、それとも広域的な応力場に支配されているのか、興味深い問題です。

 

姶良カルデラの火山活動、例えば、マグマ蓄積状況の変化が地震活動の原因であれば、地震活動とカルデラ付近の地殻変動の間に関連性があると予想されます。そこで、図1に示すカルデラを横断する約35kmのGNSS基線長の変化を図3示しました。

 

図2と図3を見比べると、若尊付近の地震の発生頻度の高まりに半年から1年先行して基線長の伸長が始まっていることが分かります。

 

2011年後半から2012年初めの基線長の伸びに2012年前半の一時的な地震の多発が、2014年後半から2018年半ばにかけての基線長の伸びには2015年から2018年末の地震の増加が、それぞれ対応しています。更に、2019年半ばからの基線長の伸びに続き、2020年から地震の増加が始まるという対応関係が認められます。

 

若尊付近の地震活動は、姶良カルデラ地下のマグマ蓄積状況の変化、即ち火山活動によって引き起こされたと考えても差し支えないでしょう。

 

基線長の変化が小さく、地震活動が低調であった2011年からの5年間には多量の降灰が観測されました(図4)。

 

活発なマグマ放出により地下でのマグマ蓄積が滞り、カルデラ付近の歪変化は小さかったと考えられます。桜島の噴火活動、姶良カルデラの歪変化と地震活動の3者は、相互に密接に関係しています。

                  2021.4.9

鹿児島湾・湾奥の最近の地震活動

(第3報)

 

           石原和弘

 

桜島付近の2010年1月から約11年間の震源分布を図1に示しました。震源は、山頂直下の円筒状の4kmより浅い場所と桜島の南西側の深さ5~10kmに集中しています。マグマ溜りの存在が推定される山頂下の4kmより深い所は地震の空白域になっています。南西部の領域Aでは、2015年前半及び2019年から2020年にかけて多発しました(図1右下)。火山活動との関係を解説します。

2014年後半からGNSSの基線長の伸びが始まりました(図2)。2015年3月から4月にかけて領域Aで地震が多発し、降灰量も次第に増加しました(図3)。

 

6月から急速に噴火活動が低下する一方で空振を伴う火山性微動が観測され、活動の行方が注目される中、8月15日、群発地震と急激な地殻変動を伴い、約200万m3と推定されるマグマが山頂東側の地下0.5~1km付近まで貫入しました。

 

図2中の点線部分の約9㎝の基線長の伸びはその際に生じました。なお、桜島の東側の深さ5~10㎞では、このマグマ貫入事件後から地震が時々発生しています。

 

2019年半ばからGNSS基線長の伸びが始まり、2019年9月から10月と2020年1月から4月にかけて桜島南西部で地震が増加しました。2019年11月から2020年4月までは降灰量がやや多い状態(20~40万トン/月)で推移しました。

 

領域Aの地震活動の高まりは、桜島を横切るGNSS基線長の伸びの開始と桜島の噴火活動のピークの間に活発化する傾向が認められることから、桜島の地下のマグマ蓄積状況の変化、火山活動が原因で生じたと考えられます。

 

桜島では、1914年1月の大正噴火の数日前には井戸の水位低下や微震などマグマが地表に近づきつつある兆候が観察され、12日10時過ぎ噴火が始まりました。

 

8時間半後にマグニチュード7の地震が発生し、その直後から翌13日にかけて噴火活動はピークに達しました。この地震の震源は領域A付近と推定されています。

大噴火に係ったマグマにより励起された地震であると考えられます。

           

2021.3.26

    鹿児島湾での地震活動について

 

                   

 

      阿部 郁男

 

鹿児島湾での地震活動が活発になってきています。そこで、気象庁の震源リストデータベースから2011年~2018年、および2020年1月1日~2021年2月28日までの震源リストをダウンロードし、その中から鹿児島湾周辺の震源のみを抽出し、発生状況の変化の分析を試みました。

 

なお、対象となる震源の深さについては、31km~83kmの間が大きく空いていたため、今回の分析では深さ31kmまでのものを対象としています。

 

左図は、2020年以降の震源、90mメッシュの地形データから描画した10m間隔の等深線、鹿児島県の被害想定による断層の配置、鹿児島湾東縁と西縁の断層を重ねたものです。

 

鹿児島県の被害想定で用いられている断層の走向は、鹿児島湾西縁・東縁断層に沿ったものである様子がうかがえます。

 

また、2020年以降に地震活動が活発となっているエリアは、姶良カルデラ内、桜島南西斜面および鹿児島湾中部の地溝に沿っている状況が分かります。

 

そこで、左図のように、3領域に分割して地震発生状況の集計を行いました。

 

姶良カルデラ、桜島周辺よりも鹿児島湾中部の地溝に沿ったエリアの地震活動が活発であることが分かります。

 

また、活発になる時期が繰り返しているように見られたため、前の地震との地震発生間隔を算出して、地震10回あたりの発生間隔と、50回あたりの発生間隔の移動平均にどのような変化がみられるのか、左下のグラフを作成してみました。

 

鹿児島湾中部の地溝に沿ったエリアでは、2020年9月21日より、強弱を繰り返しながらも、地震発生の頻度が高まっている様子がうかがえます。

背景地図として
www.openstreetmap.org
を利用させていただいております。

 

2021.3.6

               九州鹿児島湾地震について

 

                  上久保廣信

 

  

最近、鹿児島湾で群発地震が発生しています。

鹿児島は1914年の桜島大正大噴火によって、桜島と大隅半島が陸続きとなった経緯があります。この噴火の8時間後にマグニチュード7の地震が発生しました。震度6の強い揺れにより死者29名、全壊家屋120棟などの被害が生じています。

近年では平成29年07月11日にM5.3の地震が発生し震源に近い鹿児島市では震度5強を観測しました。この地震の7ヶ月前からはマグニチュード1.0以上の小さな地震が増加していたことは「2017.7.14 九州鹿児島地震について」で報告した通りです。

図1は2019年1月から2021年2月の鹿児島湾付近の深さ0-30㎞、マグニチュード1.0以上の地震を示したものです。

図2はこの地域の地震の回数を積算した図です。2019年頃から微小な地震の発生が増加しています。特に2020年10月頃より顕著な増加が見られます。

図3は鹿児島湾の東側の日向灘で発生した地震を示したものです(深さ0-45㎞ マグニチュード1.0以上)。

図4はその地震の回数を積算した図です。日向灘での一日あたりの地震発生回数は2019年1月1日から2019年12月31日まで0.90回であったものが2020年1月1日から2021年3月6日までは1.10回に増加しています。大陸に沈み込むフィリピン海プレートにかかる力が増加してきており、その影響を受けて鹿児島湾での地震も増加してきていると考えられます。

 

鹿児島湾での微小地震が増加してきていることから、今後、この地域でのやや大きな地震の発生に注意する必要があります。

2017.7.14

   

 

                     上久保廣信

 

 平成29年07月11日11時56分頃地震がありました。 震源は鹿児島湾(北緯31.4度、東経130.6度、深さ約10km)で地震規模は5.3です。震源に近い鹿児島市では震度5強の大きな揺れを感じました。

 

ここでは2017年3月11日21時10分に震度3の地震が起きています。

 

 

 

鹿児島湾では2016年の11月から、微小地震の発生が増え始めていました。

(地震積算回数のグラフ上:2016年1月から6月のマグニチュード1.0以上)

 

また、さらに遡ってみると、2010年頃から、微小地震が増え始め、2016年になり急増していたことがわかります。

(地震積算回数のグラフ下:2010年から2017年のマグニチュード1.0以上)

 

 

 

このように、地震の急増している地域をあらかじめ絞り込み、注意深く観察を続けることができれば、地下の異常な事態を予測することができます。

今回の有感地震直前までの地震活動を気象庁一元化地震データにTSEIS(震研究所)を適用して可視化しました。

ヘッディング 1

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図1.姶良カルデラ周辺の地震活動(2010年10月~2020年11月:気象庁、2020)ング 1

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図2.地震・地殻変動観測に基づく桜島・姶良カルデラのイメージ(石原,1995)

写真1 鹿児島湾の北側から見た姶良カルデラと桜島(石原和弘)

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図1.桜島周辺の震央分布

(2010年10月~2020年11月:気象庁)

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図2.若尊付近(図1の点線領域)の地震積算回数およびMT図(気象庁、2020)

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図3.姶良カルデラを挟む基線長の変化(気象庁、2020)

図4.桜島噴火による降下火山灰量(京大防災研、2020)

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図1 桜島周辺の地震活動(2010年1月~2020年11月)

(気象庁、2020)

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図2 桜島山頂部を東西方向に横切るGNSS基線長の変化(気象庁、2020)

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図3 桜島噴火による降下火山灰量(万トン)(京大防災研、2020)

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