2024.9.12
島根県海潮温泉と地震
佃 為成
2000年10月6日に発生した鳥取県西部地震(M7.3)の前、島根県雲南市大東町の海潮温泉3号泉では10月4日に湧出量が激減しました。
地震の前日にはほぼ回復し、地震後は白濁したことがわかっています。それを受けて、東京大学地震研究所は、2001年4月、水晶温度計による精密水温観測を開始したのです。
2006年4月、新しい4号泉開設に伴い、3号泉のポンプは稼働停止しました。そのため、水温が以前の34℃前後から徐々に下降し、現在では25~27℃程度になりました。
水晶温度計の観測は、機器故障のため2015年12月9日で終了し、2016年11月21日から、白金抵抗体温度計の観測に転換。当初、この器械は、ときどき文字化けというデータ異常が発生しました。その時刻のデータは除いてあります。2019年3月31日以降は正常。
2008年5月12日の中国の四川大地震(2,700km離れています)、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のような大きな地震のゆっくりした地盤の大きな揺れ(地球表面付近を伝搬する表面波)は、温泉水温の上昇変化を起こします。
温泉水が上がってくる通り道は岩盤内の亀裂の群です。岩盤が揺らされるとどこかの亀裂がぽかっと口を開けて、温泉水が通りやすくなり、地震の後、水温が顕著に上昇するのです。時間が経過すると、口を開けた亀裂は、また閉じてしまいます。この急上昇した水温が徐々にもとに戻ります。M9.0の地震では元の水温に戻るのに、5年ほどかかりました。
2016年以降の新しい温度計には、2018年4月9日に島根県西部、三瓶山の北西部で発生したM6.1の地震に伴う変化が記録されました。直後の上昇(0.4℃)後、約10日後に元の水温に戻りました。次に、2024年1月1日の能登半島地震(M7.6)発生後、水温が上昇。これも表面波の効果。
註:水晶温度計のセンサーは深さ45mに設置されていましたが、新しい白金抵抗体温度計では深さ25mです。したがって水温は約5℃低くなりますが、計測値に+5℃加算して表示しています。
水温データは1日平均値を示しています。データは2024年9月9日まで。
2021.2.26
2000年鳥取県西部地震後の水温変化
岡山県新見千屋温泉
佃 為成
2000年10月6日、鳥取県西部地震(M7.3) が発生しました(上図に余震分布)。当時私は、東京大学地震研究所に勤めていましたが、同研究所広島地震観測所の三浦勝美さん(故人)と震源を囲む地域の被害や前兆現象の聞き込み調査を行いました。調査した温泉のうち8カ所を上図に示しました。
鳥取県日南町花口の奥日野温泉では、前兆現象として、温泉水を汲み上げていた井戸の水位が1週間ぐらい前から少しずつ下がっていったことが分かりました。この井戸は、本震の震源断層の南東端に近い場所にあって、地震前の岩盤のねじれによる岩盤の膨張が起こったと考えられます。
同じく震源断層南東端に近い岡山県新見市千屋花見の新見千屋温泉では、前兆的な変動については明瞭な証言は得られませんでした。
島根県雲南市の海潮温泉では前兆現象かもしれないという証言がありましたが、詳しい状況は把握できませんでした。
以上の3カ所の温泉について、地震後の温泉水の変化を監視するため、水温の連続観測を行いました。ところが、奥日野温泉は2002年春、温泉が店じまいしたため、観測はストップ。あとの2カ所はその後も観測を続けました。しかし、新見千屋温泉も2020年春に店じまいとなり、観測を終了せざるをえなくなりました。
海潮温泉の観測についてはこれまで度々報告してきました(例えば、コラボNo.6 観測情報 島根県海潮温泉と地震)。新見千屋温泉については、まだ研究の途上でこれまで報告を控えていました。今回、これまでのデータをご紹介いたします。
下の図は新見千屋温泉の水温グラフです。温泉水は、深さ1,100mの井戸から水中ポンプを用いて貯水槽に貯めます。その貯水槽内に水温センサが設置されています。水中ポンプの位置を2004年7月20日から22日にかけて、深さ230mから330mへ下げた影響で水温値が1~2℃上昇しました。
2007年11月から2008年5月にかけて井戸に何らかの工事が行われたようです。
1日で最も高い水温を取り出してグラフにしています。それは、汲み上げた直後の水温値を取得するためです。M7.3地震後の数年間は、水温がやや下降しつつありました。地下応力の緩和です。2008~2009年頃も下降しています。その他の解釈は今後の課題です。
参考文献:佃 為成, 2000年鳥取県西部地震と2001年芸予地震の前兆現象, 月刊地球/号外 No.38, 228-238, 2002.