写真12018年3月9日の新燃岳火口
写真2 2018年3月10日4時27分の噴火
2021.10.22
2021年10月20日の阿蘇山噴火と火山情報(解説)
石原和弘
2021年10月20日に阿蘇山では、2016年10月8日の噴火以来の大きな規模の噴火が発生しました。火山活動解説資料など火山情報をもとに解説します。
10月20日11時43分に阿蘇山中岳の第一火口で噴火が始まり、福岡管区気象台は噴火開始直後の11時44分に噴火速報を発表しました。噴火に伴う大きな噴石が1km近くまで、火砕流は火口の北西1.3kmに達したことから、11時48分には噴火警戒レベル2から3に引き上げる噴火警報を発表し、火口周辺2kmの範囲での大きな噴石と火砕流に対する警戒を呼び掛けました。
続いて、11時56分には1時間以内に予想される降灰と小さな噴石の落下範囲を知らせる降灰予報(速報)を発表しました。火山業務で定められている手順通りの情報発表が円滑になされたのはそれなりの理由が考えられます。
この噴火の一週間前、10月13日の15時30分頃から火山性微動の振幅が増大し始め、17時10分に噴火警報(噴火警戒レベル2)を発表し、火口から1kmの範囲で大きな噴石に対する警戒を呼びかけました。
その後の観測と現地調査により、小さな噴火と降灰及び火口内での土砂噴出を確認し、二酸化硫黄の1日当たりの放出率が9月29日の600トンから10月14日には1,900トン、19日には3,500トンと増加したことを観測し、その都度解説情報を発表しました。
18日午後以降、火山性微動の振幅が増減を繰り返し、10月20日の噴火に至りました。福岡管区気象台と阿蘇山火山防災連絡事務所(阿蘇市役所内)の職員は、相当規模の噴火が間近に迫っていると予想して、緊張感をもって監視にあたっていたと推察されます。
迅速で適切な活動評価と火山情報発表を行うには、火山が異常なシグナルを発した時、迅速で継続的な現地観測に着手することが大切です。
中岳火口の西約3kmの草千里の監視カメラによる11:43分から約30秒間隔の映像。噴火開始数10秒後(2段目左)以降、火砕流が手前(火口の西側)に向かって迫って来る様子が確認できます。流下速度は時速50~70km程度と推定されます。
2018.4.21
4月19日に始まった硫黄山の噴火
石原和弘
4月19日に始まった硫黄山の噴火は突如始まったものではなく、韓国岳・えびの高原の方面にマグマが出口を求め始めた2014年初めから4年かけてようやく一昨日からのような水蒸気噴火に至りました。
現在は、地下1~2km付近まで達したと推定されるマグマからの火山ガスや沸騰した地下水の水蒸気や熱水を噴出して、マグマの先端付近から地表に連なる通り道を清掃している段階と考えられます。
関心のある方はNHKの備える防災の解説記事をご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20171220.html
2018.3.23
2018年3月新燃岳噴火に係る関係者の対応(概要)
石原 和弘
2018年3月1日(木)に噴火が始まった霧島連山の新燃岳では、5日から8日にかけ約1400万立方メートルの溶岩を噴出し、火口を埋め尽くしました。溶岩噴出は弱まったものの、9日には火口を埋め尽くした溶岩の一部が火口の北西側の縁からせり出し始めました(写真1)。
噴火活動は連続噴火から間欠的なブルカノ式噴火に移行し、3月10日(土)未明の爆発的噴火では赤熱した岩塊が火口から約2㎞まで飛散しました(写真2)。
気象台は、2011年噴火で岩塊が3㎞を超えて飛散した例もあることから、警戒範囲を3㎞から4㎞に拡大しました。本年2月9日に御鉢、2月20日には硫黄山に対して噴火警報を発表して、それぞれの警戒範囲を1㎞としていましたから、新燃岳の警戒範囲の拡大により、長径約11㎞、短径8㎞―東京でいえば山手線に囲まれる領域―、霧島山のほぼ全域が入山禁止という事態になり、地元自治体等による道路規制等の対策が迅速に行われました(図1)。
写真12018年3月9日の新燃岳火口
写真2 2018年3月10日4時27分の噴火
溶岩噴出という事態に、規模の大きな噴火や火砕流が発生するといった様々な予想や憶測が飛び交う中、3月9日(金)朝、霧島火山防災協議会*(事務局:宮崎県危機管理局)担当者から「連続噴火が止まりました。昨年10月と同様、この辺で専門の方々の統一見解をお聞かせ頂けると助かります」という要請がありました。火山噴火予知連絡会(事務局:気象庁)は委員・関係機関と協議を行い、13日(火)午前に見解を公表しました**。
これを踏まえ、3月15日(木)気象台は新燃岳の警戒範囲を3㎞に縮小、併せて御鉢の噴火警報を解除しました。関係自治体も道路の降灰除去などの安全対策を確認のうえ規制を解除し、16日には災害警戒本部を廃止しました。
今回の事態に迅速に対応できたのは、
(1)地元関係者が火山防災協議会を通して火山活動の現状を認識し、事前に規制等の対策を整えていたこと、
(2)3月1日朝の気象台から地元への微動発生の連絡、地元から気象台への降灰確認通報、現地観測による大量の火山ガス放出―更なる火山活動の高まりの兆候―の確認と地元への連絡など迅速な初動対応、
(3)関係機関等の迅速な観測・調査データの火山噴火予知連絡会へ報告と委員・関係機関の火山活動に係る認識の共有、といったことによると考えます。
* 火山防災協議会の構成:地元関係自治体、気象台、砂防部局、消防、警察、自衛隊、火山専門家、国・地方の関連行政機関、観光団体等、
** 平成30年3月13日 霧島山(新燃岳)の火山活動に関する火山噴火予知連絡会見解について:気象庁HPを参照下さい。
2018.2.3
2018年1月23日草津白根山噴火(速報)
石原 和弘
2018年1月23日10時頃草津白根山が1983年12月以来34年ぶりに噴火しました。1月26日に開催された火山噴火予知連絡会拡大幹事会資料を使い噴火の概要を解説します。今回の噴火地点は19世紀以降噴火を繰り返してきた湯釜を中心とする白根山ではなく、約2km南に位置する本白根山の北東部です(産業技術総合研究所資料図1)。
東京工業大学火山流体研究センターが湯釜の周囲に設置していた3か所のボアホール型地震計・傾斜計により、噴火に伴う火山性微動と傾斜変化がとらえられました(気象庁資料図5及び6)。
火山性微動は9:59に始まり、10:02頃振幅がいったん小さくなった直後に低周波成分が卓越する大振幅の微動が始まり数分間継続しました。傾斜計では微動開始から10:02頃まで本白根山方向が上昇し、その後下降する数マイクロラジアンの傾斜変化が記録されました。
気象庁は当初噴火開始時刻を火山性微動が始まった9:59としていましたが、報道の映像を詳細に分析して、10:02頃に修正しました。前述の火山性微動と傾斜変化から考えても10:02を噴火開始時刻と考えるのが妥当です。本白根山の地下で火山性微動と急激な圧力上昇が始まって2分余で噴火に至ったことになります。2014年の口永良部島、御嶽山の噴火に続き、いわゆる水蒸気噴火の発生予測の困難さを実感することになりました。
国立大学法人化を契機に政府は火山観測施設に対するケアを放棄する一方で、大学の観測データを頼りに火山監視・噴火警報業務を行っているのが現状です。今のままでは大学の火山観測施設の縮小・廃止は不可避であって、火山監視能力の低下による不幸な出来事の再発が懸念されます。