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                 2023.2.9

2023年2月6日トルコ南東部の地震(その1)

                    池田 安隆

アナトリア高原からザグロス山脈ヘと連なる中東の高原地帯は,大雑把にみればユーラシアとアフリカ・アラビアの二つの巨大プレートが南北に収束する境界である(収束速度は 10–16 mm/年).

 

しかしもう少し細かくみると,アフリカとアラビアとは死海地溝帯(Dead Sea Rift Zone; 図1)によって二つのプレートに分けられる;ここを境として,アラビア側の収束速度が約 16 mm/年,アフリカ側の収束速度が約 10 mm/年であり,両者の差分が死海地溝帯の左ずれ速度となる.

 

また収束帯の内部変形も一様ではなく,アナトリア高原は,北側を 北アナトリア断層(North Anatolian Fault)で,南側をヘレニック沈みこみ帯とその東方延長にある東アナトリア断層(East Anatolian Fault)で境されたマイクロプレートと見做すこともできる.ただし,南から沈みこむ東地中海海盆は年齢が古く(中生代初期)極めて厚い堆積物(10–15 km; Makris & Stobe 1984)で覆われているため,地殻物質の厚さが海洋プレートのそれよりはむしろ大陸や島弧に近い.そのためアナトリア高原は,日本のような沈みこみ型造山帯というよりは衝突型造山帯のように振る舞うらしい.

 

アナトリア・マイクロプレートの東部は,右ずれの北アナトリア断層と左ずれの東アナトリア断層とによって,西に開いた楔形を成す.その結果,両者に挟まれたアナトリア・マイクロプレートは西に向かって絞り出される様な動き(”lateral escape”)をすることになる(Dewy & Şengöl 1979).

 

このアイデアは,沈みこみ口も拡大境界も無く,従って自力では動けないプレートが高速で動いていることをうまく説明する.しかし図1を一見して解るように,この様な鋭角の楔を絞り出すためには,境界断層の摩擦強度が相当に低くなければならない.

 

今回地震が起こったのはアナトリア・マイクロプレートの南縁境界の東部であり,ヘレニック沈みこみ帯と死海地溝帯との会合部より北へ200–300 km に位置する東アナトリア断層の周辺である(図1).最初に発生した M7.8 の地震はこの断層の屈曲部に位置し,その11分後には M6.7 の大きな余震が起こった;約9時間後には再び M7.5 の大地震が約 100 km 北方で発生した

(図1; U.S. Geological Survey 2023; 石川 2023).

図1.東地中海周辺地域の主要活断層と2023年2月6日に起こった M6.0 以上の地震の震央.活断層分布は Duman et al. (2013) および筆者による Google Earth 影像の判読による.背景の陰影地図は GTOPO30 地形データ(EROS Center, 2018)を用いて作成した.

                 2023.2.9

2023年2月6日トルコ南東部の地震(その2)

                   池田 安隆

M7.8 の主震はほぼ純粋な横ずれで,P軸の方位は南北である(U.S. Geological Survey 2023);この地震メカニズム解の節面の一つは北東方向であり,東アナトリア断層南部の走向と調和的である.また,M6.0 以下の多数の余震がプレート三重会合点付近まで約 200 km線状配列するので(Kandilli Observatory / Boğaziçi University 2023),東アナトリア断層の主断層が活動したことは疑い無い.主断層に沿う余震は主震の北方へも更に約 200 km にわたって発生している(Kandilli Observatory / Boğaziçi University 2023).

主震の9時間後に起こった M7.5 の地震とそれに続く M6.0 の地震二つは,東西走向の分岐断層(Northern Strand of the East Anatolian Fault; Duman, & Ömer 2013)上に配列する(図1);また,この分岐断層に沿い約 150 km にわたって多数の余震が発生している.このことから M7.5 の地震は分岐断層の活動によると考えられる.

 

この分岐断層沿いには,明瞭な断層変位地形が存在する;食いちがいのセンスは左ずれであり,わずかな垂直ずれ成分を有する(図2).この分岐断層が最近の地質時代に繰り返し活動してきたことがこうした証拠からわかる.今後の現地調査によって,地表地震断層が発見されると予想される.

 

参考文献・資料:

  1. Dewy, J.F., and C. Şengöl (1979): Aegean and surrounding regions: Complex multiplate and continuum tectonics in a convergent zone. Geol. Soc. Amer. Bulletin 90, 84-92.

  2. Duman, T., and E. Ömer (2013): The East Anatolian Fault: geometry, segmentation and jog characteristics. : Robertson, A.H.F., O. Parlak, and U.C. Ünlügenç (eds.), Geological Society of London, Special Publications , 495–529.

  3. Earth Resources Observation and Science (EROS) Center (2018): USGS EROS Archive - Digital Elevation – Global 30 Arc-Second Elevation (GTOPO30), https://www.usgs.gov/centers/eros/science/usgs-eros-archive-digital-elevation-global-30-arc-second-elevation-gtopo30

  4. 2023):トルコ南部の地震,https://catfish.the-ninja.jp/event/zisin-ninja.html

  5. Kandilli Observatory / Boğaziçi University (2023): http://www.koeri.boun.edu.tr/sismo/2/tr/

  6. Maakris, J., and C. Stobe (1984): Physical properties and state of the crust and upper mantle of the Eastern Mediterranean Sea deduced from geophysical data. , 347–363.

  7. U.S. Geological Survey (2023): Latest Earthquakes, https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/map/

 

 

 

 

2023.2.10

     トルコ南部の地震(2023年)     

                   伊藤 潔

 

2月6日に発生したトルコ東部の地震は,大きな被害をもたらしています。地震のテクトニクスの解説が池田によってなされています(池田,解説情報,2023)。ここでは地震活動について簡単に報告します。

 

図1にトルコの観測網によって決定され公表されている地震の震源分布を示します。M7.8 の地震の約9分後にM7.5 の地震が発生し「双子地震」だと言われており,多くの地震が10km以浅で起きているようです。連発する地震によって被害が拡大しました。この2つの地震の発震機構を図に示しますが。いずれも横ずれ断層のようです。CMT解はGlobal CMTのものです。

図2はM-T図ですが,2つの大地震後,余震は減少しているようです。しかし,M5以上の地震が多く発生しています。

図3にM7.8の地震とM7.5以降の地震の震央を分けて示しますが,それぞれが別の断層で起きたことが分かります。2016年の熊本地震に似ていますが,数倍大きなものです。

震源データはhttptp://eida.koeri.boun.edu.tr/webinterface/

トルコ(池田)230212-1.png
トルコ(池田)230212-2.png

図2.東アナトリア断層の Northern Strand 沿いに認められる断層変位地形(Google Earth 影像により判読).写真の場所は,本震の9時間後(2023年2月6日, 10:24 UCT)に発生した M7.5 の地震の震央(図1)から11 km東に位置する Bariş 村付近.段丘化した扇状地面(畑地になっている)を下刻する谷 A–A’ が 40–80 m 左ずれしている;わずかな垂直ずれ成分(南側低下)も認められる.

図2.東アナトリア断層の Northern Strand 沿いに認められる断層変位地形(Google Earth 影像により判読).写真の場所は,本震の9時間後(2023年2月6日, 10:24 UCT)に発生した M7.5 の地震の震央(図1)から11 km東に位置する Bariş 村付近.段丘化した扇状地面(畑地になっている)を下刻する谷 A–A’ が 40–80 m 左ずれしている;わずかな垂直ずれ成分(南側低下)も認められる.

図1.東地中海周辺地域の主要活断層と2023年2月6日に起こった M6.0 以上の地震の震央.活断層分布は Duman et al. (2013) および筆者による Google Earth 影像の判読による.背景の陰影地図は GTOPO30 地形データ(EROS Center, 2018)を用いて作成した.

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図3 M7.8からM7.5 まで(赤)とそれ以降(青)に分けた震央分布

図2,M分布と積算値 (M≧3) 時間はUTC

図1 震央分布

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