2022.1.19
最近の北海道とその周辺海域の地震活動
(2018年〜2021年)
高波 鐵夫
2018年から2021年のごく最近4年間に発生した,北海道とその周辺海域の地震活動を概説します.
扱った地震の震源要素には暫定値も含まれていますが,地震規模(気象庁マグニチュード)がM3以上,震源の深さが150km以浅の地震の震央分布に基づいた地震活動図を第1図に示します.さらにこの期間に発生したM5以上の大きな地震の地震活動図は第2図で示します.
この調査期間の最大規模の地震(M6.7)は,2018年9月6日に北海道胆振地方東部に発生した地震です. 大きな活断層近傍にありながら,内陸地殻内地震活動のきわめて低い場所で発生した最大規模の地震です.
この本震と最大余震の震源要素は第2図の四角枠に示しましたが,2つの地震間のMの違いは0.9です.多くの地震から知れた経験則によれば,ほぼ共通した差です.
一方,海域に注目すると,1968年5月16日に発生した十勝沖地震(M7.9)の震源域付近で頻発しているM6前後の大きな地震が注目されます.
また,既報の知床半島沖のオホーツク海で起こった地殻内地震(M6.3)も注目されます(高波,2019),
一方,第1図からも知れるように,十勝沖から根室半島沖の海域に浅発地震の空白域があります(高波,2017).
これは沈み込む太平洋プレートとその上盤側のプレートとの強いカップリングによるためと解釈されます.しかし,それ以深のプレート境界での比較的小さな地震は逆に活発です.
ここで注意すべきは,第2図から知れるように,この海域ではM5以上の大きな地震は多くはないが広範囲に発生しているということです.
以上,最近の北海道とその周辺海域の地震活動報告です.今後もこれらを注意深く見守りながら逐次その推移を報告していきます.なお,本調査では,気象庁の地震カタログを使用し,また図の作成には,中村・石川(2005)のSEIS-PC(2005)を利用しました.
参考文献
高波,2017,コラボ,No.3,43.
高波,2019,コラボ,No.5,45.
2018.11.8.
平成30年11月5日国後島沖地震M6.2について
高波 鐵夫
北海道知床半島先端の国後島寄りで、平成30年(2018年)10月26日にマグニチュードM5.5の珍しい地殻内地震が発生し、13日後の11月5日にはより大きい地震M6.2もほぼ同じ場所で続発しました.
後者の地震によって根室地方北部の広域で震度4の揺れを感じました.現在も余震が頻発していますが、これらの地震の震源は、千島海溝とオホーツク海に挟まれた千島島弧北縁にあり、2つの地震のメカニズムは、ともに北西〜南東方向にほぼ水平な圧縮力による逆断層型地震でした(第1図).
しかし,いわゆるプレート境界の海溝型地震とは異なる地殻内の内陸地震です.
第2図には気象庁の地震カタログから2018年10月1日〜2018年11月5日までの地震を抜粋し、その震央分布と時間順に加えた地震積算図を作成し、第3図に示しました.
これらの地震の震央の南西延長部には国後島の火山列と雁行するように知床半島の千島火山帯が連なっています.その内陸延長にある斜里岳付近で2004年4月27日から群発地震が発生し、7月ごろまで継続しました.
その一連の活動の中で、5月21日にM4.8の最大地震が発生し、地震のメカニズム解は北西- 南東領域に主圧力軸を持つ横ずれ断層でした(一柳・他、2009).
現在この細長い千島火山帯でも浅い地震が頻発しています.国後島付近の地震活動とこの火山帯の地震活動の高さから推して、すでに根室付近は地殻の活動期に入っていると推察され、丁寧な監視が望まれます.
謝辞
地震カタログは気象庁地震カタログを、図の作成に、東大地震研のTSEISを使用しました.
2018.9.27
平成30年北海道胆振地震M6.7について
高波 鐵夫
平成30年(2018年)9月6日に北海道胆振(いぶり)地方東部で、北海道では観測史上初めての震度7の地震が厚真町で発生し、家屋の倒壊や土砂災害など甚大な被害を被りました.
厚真町に設置されているGPS観測地点がほぼ5.1センチ東方に変動したり、日高沿岸の門別と富浜の漁港では最大約10センチ沈むなど大きな地殻変動が各地で散見されました.
気象庁によれば、地震の規模を示すマグニチュードが6.7、この震源の深さは37kmでした. 胆振地方東部・日高地方から浦河沖の周辺では、通常の地殻内地震(おおよそ30kmよりも浅い地震)よりも深い場所でも地震が多く発生している特徴が見られ、今回の地震もこのような特徴がある地域で発生したと言えます.
地震のタイプは第1図(国土地理院による震源断層モデル,暫定)に示されたように、地盤がほぼ東西に押されて上下にずれる「逆断層型」の地震です.昨年の2017年7月1日に起こった胆振地方中東部地震M5.1もほぼ同様のタイプの逆断層型地震でした. 第1図から77度東傾斜の断層上で瞬間的なずれ運動で生じた地震と解釈できます.また大まかにはその断層に沿って多くの余震が整合的に起こっています.
第2図には気象庁による本震(最大の赤丸)発生以後の9月6日から9月20日までの地震活動状況が示されています. 図中の青色、緑色は石狩東縁断層帯の主部と南部を、赤丸が震央(震源の地表投影)を示しています.この地震活動は同規模の2004年新潟県中越地震(M6.8)や2016年熊本地震(M7.3)の余震数の減り方に比較して早く、それはほぼ1995年兵庫県南部地震(7.3)と2005年福岡県西方沖地震(M7.0)の間をたどっています. 今後もこれらの地震と同様の活動推移をたどるとすれば、 比較的早期に収束すると予測されます.
2018.7.3
2018年4月14日根室半島沖で発生した正断層地震M5.4
高波鐵夫
政府の地震調査委員会は6月26日、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した「全国地震動予測地図」の2018年版を公表しました。千島海溝沿いの巨大地震を新たに考慮したため、北海道東部の太平洋側で17年版より大きく確率が上昇したとのことです。
その現場で、最近の2018年4月14日04時00分頃、北海道東部の中標津町で震度5弱の大きな有感地震がありました。 気象庁は、その震源地を北海道根室半島南東沖(北緯43.2度、東経145.7度、震源の深さ53km)、地震の規模(マグニチュード)5.4と速報されましたが、推定された発震機構解(地震の断層運動パターン)は、北西―南東方向に張力軸を持つ「正断層地震」で、当地の地震にしては珍しい断層タイプの地震でした。
普段は、北海道下に沈み込む太平洋プレートとその上にある千島弧との境界で起こる「プレート境界型地震」の地震が専らです。断層運動は水平圧縮が主応力の逆断層タイプです。プレート境界でのカップリングが解けて上盤側の島弧側プレートが跳ね上がる逆断層タイプが専らです。今回の地震は、海洋プレート内の上部で起こった「プレート内地震」であり、断層面を境界として、上盤側が地滑りのように傾斜方向に沿って滑り落ちた正断層地震だったと理解できます。震源位置がプレート上面に近かったことから、太平洋プレートが海溝近傍の外側(アウターライズ)で下方に曲げられた時に生じたプレート表面の古傷(高角正断層)が深さ53kmではその古傷の摩擦力より重力が勝って疼いた地震と理解されます。今回の暫定的余震分布からは断層面の確認は難しいのですが、メカニズム解はプレート上面に対して垂直に断ち切るような高角正断層面が斜めに沈み込んだ幾何学を支持しています。
ただし今回の地震が現在プレート境界で予測されている根室沖の巨大地震予測とどのような関係にあるかまでは分かりませんが、当該海域では逆断層地震だけでなく、沈み込むプレート内では正断層地震も起こっていることを敢えて紹介しました。この正断層地震運動を説明するためのポンチ絵を下に示しました。ちなみに、すでに本サイトで指摘した大きな地震活動のギャップは相変わらず維持されています(高波, 2016)。