2024.6.1
能登半島の震源クラスター(2018-2023年)
佃 為成
2024年1月1日の能登半島地震(M7.6)に先だって、約6年間、群発地震活動がありました。
主な震源の塊(震源クラスター)の発生と推移を眺めてみましょう。いずれのクラスターの震源の深さはだいたい5~15kmです。
2018年から2020年までは、の能登半島珠洲市付近のクラスターAのみでした。2020年12月に地震が増大。
2018年~2020年 震央分布 M>=1.0
次に、2021年前半にはクラスターB,C が生じ、その年後半にはCの増大と新たなDが生じました(詳しくは伊藤, コラボNo.7をご参照ください)。
2022年にはCとDが合体します。2023年5月5日には、この群発活動の最大地震(M6.5)が発生し、このクラスターが日本海へも拡大。この約8ヶ月後にM7.6です。
(図の作成には東大地震研究所TSEIS web版の気象庁データJMA_PDEを使用)
2024.6.1
震源クラスターの振る舞いについて
佃 為成
岩盤に力が加わると破壊し、亀裂が生じます。地震です。亀裂ができるとき最初に破壊した地点を震源と言います。亀裂が沢山生成されると、震源が多数見えてきます。その点のあつまりを震源クラスターと呼びます。
いわゆる群発地震にはこの震源クラスターが伴います。岩盤の弱いところ、例えば小さい亀裂が多数できているところでは、外部から力が増大すると、まだ力がそれほど大きくなっていなくても、小さい地震がかたまって多数発生します。これが群発地震です。
近年の能登半島の群発地震には主な震源クラスターが4つできました。これらが相互に影響しあって、大地震に発展しました。
クラスターは接近すると合体します。クラスターの空間的広がりのさしわたしの長さ d に対し、それぞれのクラスターの中心間の距離 L がだいたい 3d より短くなるとこの2つのクラスターは合体します(合体する確率が大)(佃, 2009b)。クラスターには独立して存在するための“縄張り”があるのです。
能登半島群発地震のクラスターは互いにかなり接近していました。とくにCとDは、2023年には、いつ合体強化されるかという危険な状態にありました。
では、そもそもなぜクラスターができるのでしょうか。岩盤の中にできる小さな亀裂が連結して大きな亀裂ができると考えます。
大きな地震は小さな地震の連結によってできる。この現象を理解するため、囲碁のゲームでどのように“地”を広げて行くかをモデル化した碁石モデルや、液体が土の中に浸透して濡れる領域が拡大する浸透モデルが考えられてきました。基本的には浸透モデルに統一され、少しの要素を加えた様々なモデルが提唱されています(佃, 2009a)。
この理論を用いると、佃(2022)に紹介した、小さい地震と大きい地震の数の関係、規模別頻度分布の式を導くことができます。
分岐過程モデルの例を図に示します。
実際に観測されたクラスターの例として、1970年代の鳥取市付近(a)、兵庫県の山崎断層付近(b)、1990年代の新潟県津南町付近(c)を示します。それぞれのクラスター群で、最大の地震のMとそれが属していたクラスターを示しています。(c)ではクラスターが合体するぎりぎりの配置です。
非常に有名な群発地震の事例は長野県の松代群発地震(1965年から数年間)です。主なクラスターは2つぐらいでした。そのためか大きな地震には発展しませんでした。2016年鳥取県中部の地震(M6. 6)の前に小さなクラスターが現れ、互いにかなり離れていました。この場合は、合体活動は確認できませんでした(佃, 2017)。
参考文献:
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佃 為成(2009a),破壊の結合確率モデルと地震の規模別頻度分布, 地震予知研究ノート No.4, 38-57.
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佃 為成(2009b),共存する震源クラスターのサイズと分布間隔の関係, 地震予知研究ノート No.4, 58-62.
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佃 為成(2017), 2015年からの鳥取県中部の地震(つづき), コラボ No.3, p.40.
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佃 為成(2022), 地震のマグニチュード別発生頻度とb値, コラボ No.9, p.74.