2025.7.7
トカラ列島・悪石島周辺の群発地震
伊藤 潔
トカラ列島の群発地震が非常に活発です。この地域の地震については,佃(2022)により,沖縄トラフのテクトニクスの解説と共に2021年の活動が報告されています。今回の地震活動は,2025年6月21日から活発化し,これまでにない大規模な群発地震になっています。
図1に1997年10月からの気象庁による地震の震央分布を期間ごとに色分けして示しますが,同じような地域で地震活動が活発なことが分かります。
図には☆でM5以上の地震を示していますが,今回の地震はM5以上の地震が多発していることがわかります。
図2には図1の小さな矩形範囲の地震(2025年)を深さで色分けして示します。2カ所で活動が活発化しています。図に最大M5.5の地震のメカニズム(気象庁のCMT解)を示していますが,他の大規模地震も似たようなメカニズム解を示しています。
主張力軸が北北西-南南東方向で,沖縄トラフの運動と調和的でこの方向に地免が拡大していルことが分かります。
図3は図1の小矩形範囲の地震についてのM-T分布と地震数の積算値を示しています。この地域では繰り返しM5クラスの地震を含む群発地震が発生していることがわかります。地震数の急増が何度も繰り返されていますが,今回の増加は特に大きいこともわかります。
図4は図3の2025年6月の部分について時間軸を拡大したものです。上述のようにM5以上の地震が特に多発していることがわかります。
1991年と1992年に西表島で群発地震が発生しました。地震が測候所の直下で発生し,震度4が多発したことがありました。西表島の北方海域では過去に火山噴火が知られており,当時噴火が懸念されました。今回の地震活動は沖縄トラフ沿いの火山列の上なので,火山噴火も懸念されています。
この地域の地震活動は西表島付近より活発で,長期間断続的に続いています。GPS観測によると宝島が短期間に4cm南に移動したことが分かりました。これは地震域が開いたことを示していて,地震のメカニズムとも調和的です。悪石島で震度5強が観測されるなど,浅い地震が活発化していると
も考えられます。観測点が少なく,地震の深さの精度があまり良くないので,深さについては確かなことはわかりません。今後の活動の変化が気になるところです。
佃(2022)コラボ,No.8, p93
2025.6.26
トカラ列島悪石島南西沖群発地震の概要(速報:2025年6月24日現在)
金子 光広
宝島悪石島諏訪之瀬島
2025年6月21日からトカラ列島悪石島南西沖の海域で群発地震が発生し、この活動は6月26日現在も継続中です。(図-1)
この海域は2021年12月6日から2021年12月21日までと、2023年9月8日から2023年9月24日までの2回に渡って群発地震が発生しています。(図-2,図-3)
熊本大学大学院の横瀬久芳准教授は観測網が充実した2000年代以降の地震活動を分析した結果、大きく分けて2つの時期があるとみており、1つ目は期間としては5日間前後で、地震活動が非常に活発となって回数が多くなります。
その後、いったん活動が低調になり、2つ目は期間としては2週間前後で、1日当たりの地震回数は大幅に減るものの、地震の規模が大きめになる傾向があると考えられています。(1)
これら一連の群発地震の概要を表-1に示します。検索範囲は北緯29.05度,東経128.95度から北緯29.275度,東経129.7度、震源の深さは50km以浅です。
2021年の群発地震では地震発生期間が15日で地震発生回数が1,381回、最大Mが6.1であったのに対し、2023年の群発地震では地震発生期間が16日で地震発生回数が1,077回、最大Mが5.3でした。地震発生回数と最大Mを見れば、2021年の群発地震の方が2023年の群発地震より規模がやや大きい傾向にあります。
6月24日の時点では群発地震の発生から4日しか経過していませんが、地震発生回数は903回であり過去の群発地震が2週間程度継続したことを考慮すると、今回の群発地震の収束は7月7日前後と予想され、地震発生回数は更に増加するものと思われます。
また、最大Mの地震と群発地震全体のMをそれぞれJ(ジュール)に変換し、スカラー倍にした上で最大Jと群発地震全体のJのエネルギー比を見ると、2021年が95.7%,2023年が40%で、2025年は6月24日現在で18.7%となっており、過去の経緯からするとより規模(M)の大きな地震が発生する可能性もあり、場合によっては津波の発生も考慮しておくべきと考えます。
なお、気象庁ホームページに掲載される最新の震源データは2日前のものまでですので、この点ご了承ください。
参考文献
(1)トカラ列島近海 震度1以上の地震 25日夕方までに432回【詳報】
(NHKホームページ)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250625/k10014843981000.html
(2)気象庁 地震月報(カタログ編),震源リスト
2021.12.23
トカラ列島近海の地震活動
佃 為成
トカラ列島近海の沖縄トラフで群発地震が発生しています。2021年4月と12月の活動が顕著です。
海溝型巨大地震の巣である南海トラフは、九州沖で琉球海溝(南西諸島海溝)につながります。これらの海溝からフィリピン海プレートが沈み込んでいます。
一方、沖縄トラフは琉球海溝や南西諸島の背後で火山活動のため岩盤が拡大していて、そのためトラフ(浅めの海溝)ができています。そのトラフ沿いには、浅い地震群が並んで見えます。
2021年12月9日に発生したM6.1の地震では、トカラ列島内、鹿児島県十島村悪石島で震度V強を記録しました。この地震は沖縄トラフの状況を反映して、その震源断層は岩盤が北西-南東方向に引っ張られて造られました(正断層)。
沖縄トラフでは、2018年に報告(コラボNo.4, p.47)しましたように、その年の2月に徳之島西方沖で群発地震がありました。これは台湾の花蓮地震(2018.2.6 M6.7)に呼応したものでした。
沖縄トラフの地震活動を概観するため、長期の活動を眺めてみましょう。2018年以降の約4年間とそれ以前の約100年間を分けて震央分布図に示しました。最近の群発活動が主に、トカラ列島近海(A)と徳之島西方沖(B)に集中していることを確認するためです。
次に最近の地震活動の時間変化を、横軸に時間(T)、縦軸にマグニチュード(M)のグラフ(M-T図)で示します。活動域AとBそれぞれについて、約4年間(左図)、約1年間(右図)の経過を示しました。
今年、Aの活動は4月と12月、Bでは7月に集中しています。
悪石島と同じくトカラ列島に属する諏訪之瀬島での最近の噴火活動も気になります。この火山活動との関係については今後見守りたいと思います。
参考:
2018年台湾花蓮地震と沖縄トラフの地震活動 2018.2.24 コラボNo.4 p.47
(図の作成は東大地震研究所TSEISのweb版による。気象庁データJMA_PDEを使用)
し h1

図1震央分布(M≧0)。期間ごとに色分け。深さは150kmまで。

図2 図1の小区域の2025年の震央分布。深さ60kmまでを色分けして示す。☆はM5以上の地震で他の期間のものも示す。赤い☆がM5.5の地震のメカニズムは気象庁によるCMT解

図3 図1の小地域のM-T図と地震数の積算値分布

図4 図3の2025年6~7月のM-T図と地震数の積算値分布

図1 2025年6月21日~6月24日

図2 2021年12月6日~12月21日

図3 2023年9月8日~9月24日

表1 トカラ列島悪石島南西沖群発地震の概要

