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地震活動解説

            

 2024.7.16

 

西南日本で発見された地殻底部低周波微動(2001)

-- 深部低周波微動・深部低周波地震の発見 --

 

                 佃 為成

 

 

今年、東大地震研究所の小原一成教授が、「プレート境界における深部低周波微動の発見とスロー地震学の発展」の研究で、恩賜賞・日本学士院賞を受賞されました。地震学界における今世紀に入って最初の大発見でした。

 

この賞のニュース記事では、論文発表の2002年が発見の年となっていますが、2001年に学会で発表された当時、政府の科学技術動向の調査員だった私は、ニュースとして科学技術動向誌に投稿いたしました。その原稿を以下に提示いたします。

 

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科学技術動向          投稿 2001-12/4 受付番号「01-001334」

 

地殻深部広域において低周波微動が度々発生していることが発見された。この微動は、高密度の高感度観測網(Hi-net)の最近の展開により西南日本の広い範囲で観測されている。多くの発生源はフィリピン海プレートの沈み込み帯におけるプレート上面が30-40kmに達するゾーンの真上、深さ20-30kmの地殻底である。2Hzないしそれ以上の微動が卓越し、震動継続時間は数時間から数日、ときに数週間に及ぶ場合もある。エネルギーの集中する波群があり、それを低周波地震として抽出し、震源の位置を決定した。S波の波群と考えると震源がよく決まる。低周波地震の震源の分布から、低周波微動の発生場所が推定された。

 

発見の糸口:

1) 大学、気象庁、防災科学技術研究所などの観測網を一元化し、さらに稠密度化したHi-net 高感度地震観測網が整備されてきて、広域の微動を把握し易くなったこと。

2) 低周波地震と呼ばれる現象が注目されてきていて、そのタイプの地震を見る目が育ってきたこと。

 

この現象の地球科学的意味や課題:

1) 地殻深部流体の活動を示唆。

2) 沈み込み帯における脱水過程に伴う振動源を示唆。

3) 火山直下のマグマの挙動に似た間隙熱水の活動を示唆。

4) フィリピン海プレートの沈み込み帯のうち、微動が発生していない場所(紀伊水道、四国東部など)もあるが、その理由がまだ分かっていない。

5) 通常の地震活動が微動の発生を誘発することの示唆。例:2001年3月24日の芸予地震(M6.4)の直後から四国西部の微動が活発化した。

6) 微動長期活動とテクトニクスの関係の示唆。長期的活動には、数週間以内の活動期と数ヶ月の静穏期が見られる。プレートの運動との関連はどうか。

 

将来の科学技術に与える影響:

1) 沈み込み帯での大地震発生のメカニズムの研究に有効な情報を与える。

2) 沈み込み帯だけではなく内陸地震の発生メカニズムの解明に有力な情報を提供する。

3) 以上の研究が進展することにより地震予知の研究に弾みをもたらす可能性がある。

 

科学技術動向

 

主に対象とする分野:フロンティア

情報源:日本地震学会秋季大会 P137 小原一成 防災科学技術研究所

 西南日本で発見された地殻底部低周波微動

  ---  フィリピン海プレート沈み込み帯におけるスラブ脱水プロセスの証拠?   --

キーワード:低周波微動 低周波地震 地殻底 フィリピン海プレート

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参考:

佃 為成(2023):深部低周波微動・深部低周波地震とは,

2023.9.23 コラボNo.9, p.87.                              

伊藤 潔(2023):深部低周波地震の震源分布と規模別頻度分布

           -近畿地方における大地震との関係―, コラボNo.9, p.43~51.

 

2020.8.24

日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - ) 改訂(3)

                        

        佃 為成

 

 スマホやパソコンを利用して、日本や世界の地震活動を毎日眺めることができます。日本列島付近の地震を見てみます。ある期間の震央分布図を眺めながら、地震回数(M1.0以上)がどう推移しているかを見ます。

 

2019.10.3の解説情報で、1日あたりの地震回数が今年9月から、やや減少してきたことを報告しました。その後のデータを追加して、2019.11.22に改訂版(1) 、2020.4.15に改訂版(2)を発表しました。今回はその続編です。

ただし、2020年4月以降、上高地付近の浅発群発地震などのクラスター発生のため、積算地震回数のグラフに凸の乱れが生じたので、今回はこれらを除く処置をします。地震が10kmより浅いものを除きます。広い地域の浅い地震が抜けますが、それを除いても数が多いので、大ざっぱには問題ありません。

 

大地震が起こる前、まわりの小さい地震の発生率が低下する現象はよく知られています。地震活動の静穏化と呼びます。そこに注目します。

今回の地震活動分析の概略は以下の通りです。

 

2019年1月1日から2020年8月15日までの、日本列島内とその周辺の地震分布(震央分布)とその間の地震回数のグラフを示します。地震が発生すると地震の回数に1だけ足します。これを繰り返していきます。スタートを2019年1月1日0時0分とし、時間の経過と足し合わされた地震回数(積算地震回数)のグラフを作ります(web サイトで作ってくれます)。

 

グラフは曲線ですが、期間を限れば、だいたい直線になります。その傾きを調べますと、図の通り、2019年8月ごろまでは、地震発生率は188回/日で、その後の9月ごろから現在まで、164回/日となっています(浅い地震を除いているので前回の結果とは数が小さくなっています)。図をプリントして斜めから線を眺めると傾きの変化がよく見えます。最近は2019年9月以前に比べ12%小さくなっているのです。

 

以上は日本列島をざーっと見た地震活動です。地域を細かく見ますと、北海道地域では、2019年9月頃からの低下は、2020年5月ごろ終わり、現在は以前の率に戻っています。その他の地域もそれぞれ地震発生率の微妙な変化が起こっているようです。

2020.4.23

   北海道地域の地震活動静穏化(2019.11 - )

                        

                       佃 為成

 

 大地震が起こる前、まわりの小さい地震の発生率が低下する現象はよく知られています。地震活動の静穏化と呼びます。

 

スマホやパソコンを利用して、日本や世界の地震活動を毎日眺めることができます。昨年から日本列島付近の地震活動を見てきましたが、今度は北海道付近に絞ってみます。ある期間の震央分布図を眺めながら、地震回数(M1.0以上)がどう推移しているかを見ます。

 

以下、北海道地域の地震活動分析の概要です。日本列島全体では、2019年9月ごろから静穏化しています。北海道では少し遅れて11月頃から静穏化が始まっています。

 

2019年1月1日から2020年4月15日までの、北海道とその周辺の地震分布(震央分布)とその間の地震回数のグラフを示します。地震が発生すると地震の回数に1だけ足します。これを繰り返していきます。スタートを2019年1月1日0時0分とし、時間の経過と足し合わされた地震回数(積算地震回数)のグラフを作ります(web サイトで作ってくれます)。

 

グラフは曲線ですが、期間を限れば、だいたい直線になります。その傾きを調べますと、図の通り、2019年10月頃までは、地震発生率は20.8回/日で、その後の11月ごろからは、18.3回/日となっています。図をプリントアウトして斜めから線を眺めると傾きの変化がよく見えます。最近は2019年11月以前に比べ、発生率が12%小さくなっているのです。

 

この変化は主にマグニチュードが1~3の小さい地震の数の変化です。海の地震や深い地震では小さい地震は検出されにくいので、この統計には貢献していません。観測点に近い陸地の浅い小さな地震の動きを見ています。

 

北海道地域ではごく最近は活動が低下していることがはっきりしました。

上図は地震の震央分布。解析した震源データの地理的範囲、深さの範囲、時間的な範囲、マグニチュードの範囲などが分かります。下図が積算地震回数のグラフです。

 

参考:解説情報 日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - ) 改訂(2)  2020.4.15

 

 

 

 

                         2020.4.15

日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - ) 改訂(2)

                        

                           佃 為成

 

 スマホやパソコンを利用して、日本や世界の地震活動を毎日眺めることができます。日本列島付近の地震を見てみます。ある期間の震央分布図を眺めながら、地震回数(M1.0以上)がどう推移しているかを見ます。

 

2019.10.3付の解説情報で、1日あたりの地震回数が今年9月から、やや減少してきたことを報告しました。2019.11.22には、その後のデータを追加して、改訂版(1)を発表しました。今回はその続編です。

 

大地震が起こる前、まわりの小さい地震の発生率が低下する現象はよく知られています。地震活動の静穏化と呼びます。

 

2018年9月6日の北海道胆振東部地震(M6.7)や2019年6月18日の山形県沖地震(M6.7)発生前の約1ヶ月間に静穏化があり、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)発生前の約半年間にも静穏化が起こっています。

 

現在進行中の地震活動分析結果の概略は以下の通りです。

2019年1月1日から2020年3月31日までの、日本列島内とその周辺の地震分布(震央分布)とその間の地震回数のグラフを示します。地震が発生すると地震の回数に1だけ足します。これを繰り返していきます。スタートを2019年1月1日0時0分とし、時間の経過と足し合わされた地震回数(積算地震回数)のグラフを作ります(web サイトで作ってくれます)。

 

グラフは曲線ですが、期間を限れば、だいたい直線になります。その傾きを調べますと、図の通り、2019年8月頃までは、地震発生率は215回/日で、その後の9月ごろからは、191回/日となっています。図をプリントして斜めから線を眺めると傾きの変化がよく見えます。最近は2019年9月以前に比べ11%小さくなっているのです。

 

この変化は主にマグニチュードが1~3の小さい地震の数の変化です。海の地震や深い地震では小さい地震は検出されにくいので、この統計には貢献していません。観測点に近い陸地の浅い小さな地震の動きを見ているのです。大きい地震の活動を見ても、2017年以降、M6.5以上の浅い大地震は、2018年北海道胆振地震(M6.7)と2019年山形県沖地震(M6.7)のみで、やはり最近の地震活動は低調です。

以上は日本列島をざーっと見た地震活動です。地域を細かく見ますと、北海道地域ではごく最近はもっと活動が低下していますし、近畿地方などでは活動がやや活発化しています。日向灘をのぞく九州では地震発生率は、ほぼ一定のようです

 

                                    

 

 

 

 

                          2020.4.3

震度データに基づく日本列島の地震活動静穏化         (2019.9 - ) (改訂1)

                        

                          佃 為成

 

2019年10月3日に解説情報 日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - )、同11月22日にはその改訂版で、1日あたりの微小地震の回数が今年9月から、やや減少してきたことを報告しました。

 

その後の状況についての解析結果をお伝えしたいのですが、データソースである東京大学地震研究所の解析用webサイト(TSEIS web版)が、昨年末、コンピュータウィルスの攻撃を受け、ダウンしていて、まだ復旧しておらず、解析ができません。

 

そこで、気象庁ホームページから、震度データベースを検索して有感地震の回数を数えます。地震が発生すると地震の回数に1だけ足していくのが原則ですが、ここでは、スタートを2017年1月1日0時0分とし、1ヶ月毎に震度2以上の地震を数え、横軸を時間、縦軸を地震回数(積算地震回数)となるグラフを作ります。

 

大地震が起こる前、まわりの小さい地震の発生率が低下する現象はよく知られています。地震活動の静穏化と呼びます。

 

図は、2017年1月1日から2020年3月31日までの、全国で観測された震度2以上の地震回数の積算回数曲線です。

 

グラフは曲線ですが、期間を限れば、だいたい直線になります。ただし、北海道胆振東部地震(M6.7)や山形県沖地震(M6.7)発生に伴う地震活動の高まりがあります。

 

その前後の直線的なカーブの傾きを調べますと、図の通り、2019年8月頃までは1.76回/日で、その後は1.44回/日となっています。約20%の発生頻度(発生率)の低下です。図をプリントして斜めから線を眺めると傾きの変化がよく見えます。

 

この地震活動静穏化が何を意味するのかは、まだわかりません。大きな地震発生前兆の可能性はあります。どこでどのような大地震かというのは、もっときめ細かい地震活動分析や各種の観測データを総合して判断すべきものです。

 

今のところ、首都圏付近では、房総沖や立川断層、近畿では琵琶湖・京都・大阪・神戸付近、九州では日奈久断層の不知火海の部分などをマークしています。南海トラフの超巨大地震も目を離せません。この最前線の地域でも、数年前から各地で水位や地下水温の変化が顕著です。北海道の根室沖や釧路沖、青森県東方沖も大きな地震の可能性があります。

 

参考:

解説情報 日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - )  2019.10.3

解説情報 日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - ) 改訂(1) 2019.11.22

解説情報 震度データに基づく日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - )  2020.3.8

 

 

 

 

2019.11.22

東北地方太平洋沖地震前の地震活動静穏化

                        

            佃 為成

 

大地震が起こる前に、まわりの小さい地震の発生率が低下する現象はよく知られています。地震活動の静穏化と呼びます。しかし、そのメカニズムは簡単ではありません。

 

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)発生前の約半年間にも静穏化が起こっています。

 

2010年1月1日から2011年4月1日までの、日本列島内およびその周辺の地震分布(震央分布)とその間の地震回数のグラフを示します。地震が発生すると地震の回数に1だけ足します。これを繰り返していきます。スタートを2010年1月1日0時0分とし、時間の経過と足し合わされた地震回数(積算地震回数)のグラフを作ります。

 

グラフは曲線ですが、期間を限ると、だいたい直線になります。その傾き(地震発生率)を調べますと、図の通り、2011年10月ごろまでは168回/日で、それ以降、M9.0の地震が発生するまでの2011年3月11日の期間では149回/日となっています。 図をプリントして斜めから線を眺めると傾きの変化がよく見えます。わずかですが、この傾きが11%小さくなっているのです。

 

ところで、このM9.0の超巨大地震発生以前は、168回/日ですが、この地震以降日本付近は地震活動が活発になり、200回/日を超えていました。

 

静穏化期間が長いほど大きな地震が発生すると考えられます。M9.0の地震では約半年間の静穏化でしたが、M6~7クラスでは、例えば2019年6月18日の山形県沖地震(M6.7)の静穏化期間は約1ヶ月です。また、2018年6月18日の大阪府北部の地震(M6.1)では、地震が小さすぎて、発生前の静穏化の検出はできませんでした。

 

参考:

解説情報 日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - )          2019.10.3

解説情報 日本列島の地震活動静穏化(2019.9 - ) 改訂(1)   2019.11.22 

解説情報 2019年山形県沖地震(M6.7)の意味(3)

静穏化200815-1.jpg
静穏化200825-2.jpg
(図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁データ、JMA_PDEを使用)
北海道地域の静穏化200426-1.jpg
北海道地域の静穏化200426-2.jpg
全国静穏化200415-1.jpg
全国静穏化200415-2.jpg
20200403静穏化.jpg

(気象庁ホームページの震度データベースに基づく)

3.11静穏化191124-1.jpg
3.11静穏化191124-2.jpg
(図の作成には東大地震研究所TSEISweb版の気象庁データ、JMA_PDEを使用)
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